「MaaS(Mobility as a Service)」。
先見の明を持ったビジネスパーソンの間では、既に定着している概念です。
本書はそんなMaaSが実現した後の世界まで言及しており、さらにMaaS進展の現状や各地の課題、世界での実施事例をわかりやすく簡潔に伝えてくれています。
そのため、MaaSエントリーとしても、MaaSを実際にビジネスで使っていく人にとってもお勧めの一冊です。
① MaaSレベルとは何か?
② MaaS実現に向けた課題
③ MaaSが実現する世界
① MaaSレベルとは何か?
まず、本書で紹介されているMaaSの定義からご説明します。
MaaSとは、「あらゆる交通手段を統合し、その最適化を図ったうえで、マイカーと同等か、それ以上に快適な移動サービスを提供する新しい概念。」です。
また、MaaSには0〜4の合計5つのレベルが存在します。
[MaaS Level 0 統合無し(No Integration)]
Level0は、車は車、電車は電車、タクシーはタクシーといったように、それぞれの事業者が個別に行うモビリティーサービス提供されている世界です。
グローバルスタンダードでは、単独のモビリティーサービスを進化させたものはMaaSとは呼ばれません。
[MaaS Level1 情報の統合(Integration of Internet)]
レベル1は、異なる交通手段の情報を統合して提供するサービスです。
マルチモーダルな検索サービスがこのレベル1に該当します。例えば、Google mapによるルート検索や所要時間の案内は、自動車と他の交通手段とが比較されたマルチモーダルな交通情報提供の代表例とされています。
ただし、先述したように、MaaSとは、「あらゆる交通手段を統合」「最適化」「マイカー以上に快適なサービスの提供」と包含した概念なので、レベル1のサービスはもMaaS とは呼べません。
レベル1における社会インパクトは、以下の点だとされています。
- 異なる交通サービスの情報が統合
- マイカー以外の多様な選択肢の提供
[MaaS Level2 予約・支払いの統合(Integration of booking&payment)]
レベル2は、マルチモーダルなルート検索に加え、「予約」「決済」が可能になった統合型のプラットフォームによるサービスです。
このレベル2以上のサービスが、MaaSに該当し、具体的にはDaimlerのmoovel、ロサンゼルスのゴーエルエーなどのサービスが例として挙げられます。
レベル2における社会インパクトは、以下の点です。
- チケットレス・キャッシュレスによる、シームレスな移動の実現
- 移動の安心向上
[MaaS Level3 提供するサービスの統合(Integration of the service offer)]
レベル3は、予約、決済だけではなく、専門の料金体系などシームレスなモビリティーサービスが実現される段階です。
例えば、月額のサブスクリプションモデルがそれに該当します。
レベル3のサービスにおける独自性は、個々の交通事業者の垣根を超え、顧客主義に徹底した新しい概念のモビリティーサービスを提供している点です。
レベル3における社会インパクトは、以下の点です。
- 定額制パッケージにより移動の価値観、コスト意識の変革
- 新たな移動需要の創出
例えば、レベル3のMaaSサービスにおいては、他の産業とのサービスコラボレーションが考えられます。
その一つが、「観光型MaaS」などと言われている、「モビリティー×観光」の産業領域です。
特にインバウンド需要が考えられます。というのも、日本に来る観光客は、一度目はそれこそ「日本食を食べること」「ショッピング」等の需要が高いですが、二度目の観光となると、より日常的な日本を体験したがるそうです。
目立った観光資源がなくても、日本人が日常的に楽しんでいるところをうまくプレゼンテーションし、さらにそこにたどり着くまでに足を用意してあげるのは一つの手だと思います。
この枠組みで考えると、「自動車メーカー×MaaSプラットフォーマー(配車の最適化等MaaS実現のプラットフォームを提供するプレイヤー)×Airbnbのような日常的な日本を体験できるサービス」等の座組はありかもしれません。
日本に2回目の観光に来た観光客が、到着前にAirbnbで田舎の宿泊先予約、さらに、Airbnbとパッケージになっている、MaaSサービスで空港から現地への足を確保、さらに現地生活者と観光客を繋ぐサービスにより、観光客は、地元の人しか行かないような場所への訪問、伝統行事の体験等、「観光向きではない側面の日本」を見ることができる。そんなサービス、僕なら使ってみたいです。
[MaaS Level4 社会全体目標の統合(Integration of Social goal)]
レベル4のMaaSを実現しているサービスはまだ世界には存在しない、とされています。
レベル4とは、「地域政策との統合」「官民連携」が実現された状態で、レベル3以下よりも、より社会性の高いサービスとなります。
スマートシティー構想を実現したMaaSサービスはレベル4に含まれるでしょう。
レベル4を実現しているサービスはまだありませんが、それに近いサービスを実証実験段階で実現したプレイヤーはいくつか存在します。
その代表例が、2014年~2015年に、ウィーン市当局が開発・実証した「SMILE」です。
「SMILE」は、スマートシティーの実現という上位の政策目標に統合されていた点、また自治体主導で官民協働が進んでいた点において、レベル4に近いとされています。
また日本でも、「金沢ダイナミックパーク&ライド社会実験」がレベル4に近いとされています。
これは、金沢市におけるマイカーとパーク&バスライドを統合したマルチモーダルな情報提供の社会実験です。
具体的には、マイカーで兼六園まで行った場合と、シャトルバスで言った場合のリアルタイムの所要時間を直接ドライバーに提供しました。さらに所要時間の提供だけではなく、駐車場情報を統合し、1つのパッケージとして取り組まれた点で、MaaSの目指す方向性と合致したものでした。
レベル4における社会インパクトは、以下の点だとされています。
- スマートシティーの実現
- 都市全体の目的との整合
- QOLの向上
また、高レベルなMaaSが実現された社会においては、自動車ディーラーの在り方も変わってくると、本書には書かれています。
具体的には、車両の稼働率が上がることでメンテナンスや中間整備の需要が高まる、平たく言えば、ユーザーがディーラーに来る機会が増えるのです。
そこにおいては、ディーラーマンは、ユーザーとのコミュニケーションを濃くする必要があります。
コネクティッドカーを理解し、ユーザーに一番近い担当者がそのニーズを把握し、地域に密着したライフスタイルに関係するサービス-モビリティー、飲食店、観光、旅行、ファッション、ショッピング、エンタメ-を紹介し、販売するというコンシェルジュという役割を果たします。
はたまた、シェアという概念が広がった世界では、ユーザーとユーザーとをつなぐ役割を求められるかもしれません。
要は、ディーラーを起点として、地域コミュニティーが形成される可能性もあるのです。
MaaSとは、上記のように、様々な発展性を持った、この先10年のモビリティーのベースとなる概念なのだと、本書を読んで感じました。
② MaaS実現に向けた課題
このパートでは、MaaS実現に向けた課題を説明します。
先に前提となる考えを説明します。移動については、「Mobility」「Transport」の2つの言葉がありますが、2つの言葉は以下のように異なります。
- 動く側の視点で移動を捉えた言葉=Mobility
- 運ぶ側の視点で移動を捉えた言葉-Transport
要は、Mobilityとは動く側=ユーザー(生活者)視点で移動を捉えた言葉なのです。
MaaS実現にあたっては、Mobility側(需要家目線)と、Transport側(供給者目線)のズレが課題になります。
具体的な課題は、融通の利かない公共交通、自由だが外部不経済(*取引当事者以外に費用が及ぶこと)の大きいマイカーとの隙間を埋める「多様な交通手段の協業」と「それを個人ニーズに合わせたパッケージにして提供するモビリティーオペレーターの不足」です。
MaaSでは、その課題に対して交通事業社とは別の存在を介在させることでMobilityとTransport間の不一致を埋めようとしています。
とりわけ、「マイカー依存からの脱却」は難しく、MaaSの質を高めていくためには、公共交通への投資が必須です。
しかし、現状の日本の田舎は、マイカー依存が進んだ社会なので、公共交通の利用者が少なく、利益が出ません。かといって、税金を投入しようにもマイカー利用者からの反対により、支持を得ることが難しい、という状態なのです。
MaaS実現による、「自由な移動手段の選択」がより効果をもたらす場所は地方社会ですが、そこでのマイカー依存からの脱却(シェア文化の意識付け)とマネタイズが大きな課題となっています。
③ MaaSが実現する世界
MaaSを導入すれば、「人の移動に関するビックデータ」が収集できるようになります。
このビックデータが、人々の生活する街を変える武器になります。
具体的には、MaaSを導入することで、移動の目的地、経路、時間、速度、車の挙動などのデータが集まります。
上記データの活用先として期待されているのが、交通計画や都市計画です。
例えば、渋滞や事故が起こりやすい場所を分析し、それを改善するための道路整備や公共交通の整備をするといったことが始まりになります。
さらに、人の流れを変えるために、今はあまり人が来ていない場所に施設を作る等、都市の全体最低を考えた街づくりにMaaSによるデータを活用することが可能です。
データによる仮説検証を継続しながら、それを道路計画、交通計画、都市計画に活かすことで、都市をより快適な場所にし、住民のQOLを向上することがMaaS(とりわけレベル4以降)実現後に待っている世界です。
都市計画への反映というポイントを少し深ぼってみましょう。
MaaSエコシステムが普及し、所有から利用へのシフトが実現すれば、「クルマ中心(Vehicle Centered)」になっていた町や社会が、「人間中心(People Centered)」に生まれ変わる機運が生まれます。
ばらばらとしてきましたが、最後にMaaSにより変化のポイントをまとめて本記事を閉じたいと思います。
- 移動のパーソナライズ化
- 個々人のニーズに合わせた移動手段をアレンジ、新たな交通需要の創出が可能に
- 都市・交通の全体最適化
- 「乗り放題パッケージ」の出現で、交通以外のビジネスとのワンパッケージ化が容易に
- 都市や場所の再定義
- カーシェアや配車サービスの普及で駐車場が消滅、空きスペースの有効活用が可能に
- 交通体系の再構築で、リッチによらないビジネスが可能に
「交通の最適化「街の最適化「場所の再定義」MaaSによって実現し得るのは、ただの便利な社会ではないんだ、ということを僕自身、本書で理解しました。地方の活気を取り戻す等、「社会課題の解決」「スマートシティーの実現」等、非常に多くの可能性をMaaSに感じ、ワクワクしています。
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