- レジリエンスとは?
- レジリエンスは子どもにとってなぜ重要?
- どうやったら子どものレジリエンスは育つ?
- レジリエンスを育てる上での注意点は?
本記事ではこのような疑問に答えます。
記事を書いている僕は、非認知能力に関する教育サービスの開発(3年)や、中高生の非認知能力を伸ばすキャリア・お金の教育(プロボノ)などをしています。
レジリエンスは、こころの回復力
まずは、レジリエンスの定義や構成要素について説明していきます。
困難な状況から立ち直る力が、レジリエンス
『非認知能力:概念・測定と教育の可能性』では、レジリエンスを以下のように定義しています。
過酷な状況やストレスフルな状況、あるいはトラウマ体験といった逆境に直面した際に、そのショックから回復し、状況に適応していく力
一言にまとめると、レジリエンスは「心の回復力」だと言えるでしょう。
人は大なり小なりショックな出来事や苦しい状況に直面することがあります。
そして落ち込んだり、やや大袈裟ですが時には絶望したりすることがあると思います。
レジリエンスが高いと、そのように一時的にネガティブな方向に向いている心を通常状態に戻すことが可能。
補足として、「レジリエンスが高い人」は「心が傷つかない人」「挫折しない人」と同じ意味で捉えられることがありますが、これは誤解です。
レジリエンスは、心が傷ついたり挫折したりした時に、心を通常状態に”戻す”力なので、心が傷つかない能力とはまた別。
例えば子どもの場合、死に物狂いで練習をしたけど、サッカーチームのスタメンから外されることがあるでしょう。
そのような場面で、自暴自棄になりサッカーをやめてしまうなど、「諦め」「思考停止」「必要以上に長く落ち込む」のはレジリエンスが低い子どもの特徴。
一方で、レジリエンスが高いと、自分もしくは人の力を借りて心を通常状態に戻し、再びスタメンを獲得するために練習量を増やすなどポジティブな行動をします。
また、レジリエンスはいま育児や教育の分野で注目されている「非認知能力」に分類されます。
非認知能力は、自己肯定感、コミュニケーション能力など数値化することは難しいけれど社会的成功を得るために必要な生きる力の総称。
*非認知能力についてはこちらの記事で詳しく解説しています
子供の将来を左右する「非認知能力」とは何か?【脱・学力偏重】
その中でもレジリエンスは、ペンシルベニア大学の心理学者アンジェラ・ダックワース教授が提唱した「GRIT」を構成する一つの要素なのです。
GRITは、日本語だと「やり抜く力」とも言われ、遥か遠い目標に向かって挫折を乗り越え最後までやり切る能力。
遠い目標を達成する過程では高い確率で失敗や挫折をするため、そこから心を通常状態に戻すレジリエンスが必須という訳です。
*GRITの概要や子どものGRITを伸ばす方法をこちらの記事で詳しく解説しています
【GRIT】子供の「やり抜く力(グリット)」を伸ばす5つの方法
レジリエンスを構成する6つの要素
「二次元レジリエンス要因尺度」では、レジリエンスの構成要素を6つ規定しています(平野,2010)。
それが以下。
レジリエンスはどこか掴みどころがない概念に聞こえますが、先述の定義とこの6つの要因で少し理解が進むのではないでしょうか?
ここまでのまとめ
- レジリエンスは「こころの回復力」
- レジリエンスは非認知能力に分類される
- 「楽観性」「統御力」「社会性」など6つの要因から構成される
高いレジリエンスがうつを予防し、学校生活を楽しませる
そんなレジリエンスですが、子どもの頃から育てていくとさまざまなメリットがあります。
メリットをまとめると、人生で起こるネガティブなイベントから立ち直って挑戦したり人生を楽しんだりできる子どもになる、ということ。
レジリエンスの効果についての研究は沢山ありますが、例えばConway&McDonough(2006)は高いレジリエンスが精神的・身体的健康に影響することを明らかにしています。
具体的には、レジリエンスが高い子どもは、そうでない子どもに比べて就学前の抑うつ傾向と若年でのアルコール接種の可能性が低くなるそう。
また、Martin&Marsh(2006)はレジリエンスが高い子どもは学校において以下のようなポジティブな傾向を見せることを明らかにしました。
- 学校生活を「楽しい」と答える確率が高い
- 授業への出席率及び発言など授業への参加率が高い
- 自尊心が高くなりやすい
このように、高いレジリエンスは、ネガティブな出来事に強くなり、かつ学校生活を充実させるなどポジティブな効果ももたらします。
ちなみに、「子どもの頃からレジリエンスを育てよう」と書きましたが、青年期や大人になってもレジリエンスは高めることができます。
『非認知能力:概念・測定と教育の可能性』では、「レジリエンスは年齢に伴って上昇していく能力」と記されているなど、人生を通して育めるし、育んでいく必要があるのがレジリエンスなのです。
ここまでのまとめ
- レジリエンスが高いと、うつや若年でのアルコール接種を予防できる
- レジリエンスが高い子供は学校を楽しみ、自尊心が高くなる
- レジリエンスは生涯に渡って伸ばせる
【家庭で実践!】子どものレジリエンスを育てる4つの方法
ここからは、親子で実践できるレジリエンスを高める方法を紹介していきます。
基本的には、ここまでも何度か登場しましたが、『非認知能力:概念・測定と教育の可能性』の内容を分かりやすく変換して解説します。
- 親子で日記をつけ、ポジティブ感情を認識
- 24個の特性から、子どもの強みを発見
- 「育て方診断テスト」で、頼られる親になっているか確認
- 声がけで、子どもの自己肯定感・自己効力感を育成
① 親子で日記をつけ、ポジティブ感情を認識
レジリエンスを高めるには、日々発生するポジティブな感情に気付くことが有効。
なぜなら、自分が日常的にポジティブな感情を抱いていることに気づけると、その後の生活においてポジティブな感情に気付きやすくなったり、ポジティブな感情を獲得するための行動を取りやすくなるからです。
要するに、一度気づいたポジティブな感情が、更なるポジティブな感情につながるのです。(専門的には、「拡張-形成理論」といいます)
そして、そのようにポジティブな感情が自分の中に蓄積されていくと、気持ちが落ち込んだ時に役に立ちます。
具体的には、落ち込んだ時に、過去にポジティブな感情を獲得した時の行動パターンを思い出し同様のアクションを行うことで気持ちを回復できるのです。
ただ、ざっくりと「ポジティブ感情に気づこう!」と言ってもなかなか難しいもの。
そこで紹介するのが、心理療法などでも採用されることが多い「ポジティブ日記」。
ポジティブ日記は、その日あったポジティブな出来事や感情をそのまま日記に記録していく手法です。
実際、学生を対象に行われた実験では、1ヶ月毎日自分の感情を日記に記録してもらった結果、レジリエンスのスコアと人生の幸福度が改善されたそう(Cohn et al 2009)。
ぜひ、夕食後などに親子で日記をつける習慣を持ってみてください。
② 24個の特性から、子どもの強みを見つける
2つ目は、子どもが持っている強みに気づかせてあげよう、というアドバイス。
レジリエンスは、自身が持っている「内的資源」「外的資源」を認識することで鍛えられます。
- 内的資源
性格など自身が既に持っていたり過去に発揮していたりする要素 - 外的資源
困った時に頼れる人など、自分の外側にある資源
外的資源については後述しますが、子どもが内的資源、つまり自分自身の強みを把握することは重要。
なぜなら、逆境に陥り気持ちが落ち込んだ時にも、自分が持っている強みを認識していれば、それを発揮して心を通常状態に戻すことができるから。
反対に、自分の強みが不明だと、落ち込んだ時に何を頼りにすればいいか分からないので具体的なアクションが思い浮かばず、落ち込んだままになってしまう可能性が高いのです。
とはいえ、なかなか強みを見つけるは難しいと思います。
ポジティブ心理学では人間の普遍的な強みを24個にまとめているので、それを見ながら強みを見つけてみることをおすすめします。
「VIA INSTITUTE ON CHARACTER」というサイトで診断することができるので、気になる方は試してみてください。
VIA INSTITUTE ON CHARACTER
③ 「育て方診断テスト」で、頼られる親になっているか確認
先ほど、子どものレジリエンスを高めるには、「内的資源」と「外的資源」両方を認識する必要があると記しました。
それに紐づき、3つ目のアドバイスは、「親が子どもにとって有益な外的資源になろう」というもの。
振り返りですが、外的資源は失敗して気持ちが落ち込んだ際に助けてくれる他者や、社会的な支援です。
学校に通ったら、困った時の相談相手や愚痴を言う相手が友達や先生になるかもしれませんが、幼少期の頼る先は基本的に親ですよね。
具体的には、「自分が子どもにとって有効な外的資源になれているか」の確認から入りましょう。
心理学者のナンシー・ダーリングが作成した「育て方診断テスト」というものがあります。
合計15個の質問に対して、自分の子どもが迷わずに「当てはまる」と答えるであろう項目にチェックを入れていくテストです(『GRIT』より)。
下記に、実際の設問を載せておくのでぜひ試してみてください。
ちなみに、【×】マークは心理学的には賢明ではない接し方や状態なので、【×】マークの項目にチェックが入ってしまった方はぜひご自身のお子さんへの接し方を見直してみましょう。
- 【●】困ったときは、親を頼りにできる。
- 【●】親は私との会話の時間をつくってくれる。
- 【●】私は親と一緒に楽しいことをして過ごす。
- 【×】親は私の悩みごとを聞いてくれない。
- 【×】私ががんばっても、親はほとんどほめてくれない。
- 【●】親は、私にも自分の意見を持つ権利があると信じている。
- 【×】親は、自分たちの言うことが正しく、私は文句を言わずに従うべきだと思っている。
- 【●】親は私のプライバシーを尊重してくれる。
- 【●】親は私にたくさんの自由を与えてくれる。
- 【×】私がなにをしてよいかは、ほとんど親が決める。
- 【●】親は私に家族のルールに従うことを求めている。
- 【×】親は私が悪いことをしても叱らない。
- 【●】親は 「こうすればもっとよくできるはずだ」という方法を指摘する。 まちがったことをしても、親から罰を与えられることはない。
- 【●】親は、たとえ大変なときでも、私がベストを尽くすのを期待している。
④ 声がけで、子どもの自己肯定感・自己効力感を高める
レジリエンスを発揮するためには、日頃から自己肯定感・自己効力感を育ておく必要があります。
自己肯定感・自己効力感が高ければ、親の介入がなくとも、子どもが自分の力を信じて自ら立ち直る確率が上がるでしょう。
そのため、日頃から子どもの自己肯定感・自己効力感を高める関わりをしておくことが必要。
自己肯定感と自己効力感の違いやそれぞれを育てる方法は、詳細を説明した記事があるのでそのリンクを貼っておきます。
自己効力感と自己肯定感、それぞれを徹底解説【定義、種類、高める方法など】
ここでは、自己肯定感・自己効力感両方に関係する「子どもの褒め方」について簡単に紹介します。
「なんでもかんでも叱る子育てよりも、褒める子育てが良い」ということはもはや常識だと思いますが、もう一歩進んで「褒め方」にも注目してみましょう。
実は、褒め方によっては子どもの挑戦する心を失わせたり、自己肯定感などを低くしたりしてしまうのです。
具体的には、以下の4ポイントを抑えた褒め方ができているとベター。
- 結果ではなく、過程を褒める
- 抽象的ではなく、具体的に褒める
- 時間をあけず、直後に褒める
- 他人ではなく、過去のその子どもと比較して褒める
子どものレジリエンスを育む4つの方法まとめ
- 親子で日記をつけ、ポジティブ感情を認識
- 24個の特性から、子どもの強みを発見
- 「育て方診断テスト」で、頼られる親になっているか確認
- 声がけで、子どもの自己肯定感・自己効力感を育成
子どものレジリエンスを育てる上での2つの注意点
子どものレジリエンスを育てる上でやってはいけないことや注意点が存在します。
本記事の最後に、そんな注意点を2つ紹介。
- 先回りして子どもの失敗の機会を奪うのはNG
- レジリエンスの前に、アタッチメント形成を
1, 先回りして子どもの失敗の機会を奪うのはNG
心配の気持ちからついやってしまうのが、先回り。
具体的には、子どもが失敗しそうな選択をしている時、親が「こっちにしておきな」などの”正解(と思われること)”を教えてしまう行為です。
これを繰り返すと、子どものレジリエンスは育ちません。
なぜならレジリエンスは、失敗から立ち直る経験を繰り返す中で育つ性質を持っているからです(『非認知能力の概念・測定と教育の可能性』)。
例えば、幼稚園に出かける際、晴れているのに長靴を履いていこうとしらどうしますか?「晴れだから、こっちの靴にしようね。」と、普通の靴をおすすめするでしょか?
できることなら、そのまま長靴で出かけさせてあげてください。
恐らく、走りにくいので友達と遊びにくかったなど不利益を被るでしょう。
そのような失敗から新しい気づきを得たり、気持ちを立て直したりする中で、レジリエンスなどの非認知能力が育まれるのです。
ただ、失敗した時に子どもがそこから立ち直るアクションを思いつかなかったらどうするんだ?と思う方もいらっしゃるでしょう。
そんな方におすすめな方法が、「If-thenプランニング」。
具体的には、最初のアイデアが上手くいなかった時は(if)、こんなアクションをしよう(then)というように、あらかじめ先を見越して、実際にその状況に陥った際のアクションを決めておく手法。
if-thenプランニングをしておくことで、例え何かに失敗しても、「失敗した、どうしよう、、」と途方にくれるのではなく、「失敗した、じゃあプランBに移行しよう!」と具体的なアクションに移ることができます。
幼いうちはそこまでスパッと切り替えられる訳ではないと思いますが、それも含めてのトレーニングです。
2,レジリエンスの前に、アタッチメント形成を!
2つ目の注意点は、レジリエンス育成の前にやることがある、ということ。
具体的には、「アタッチメントの形成」です。
アタッチメントは、人と人との間に生じる感情的なつながり。
子どもと親の間にアタッチメントが形成されていると、子どもは親の前で気兼ねなく新しい物事に挑戦し、失敗しても必要以上に狼狽することなく親を頼ることができるのです。
実際、1970年代にミネソタ大学ではじまった長期研究では、1歳時点で母親との間に安定したアタッチメントがみられた子どもはミドルスクールにおいて高いレジリエンスを示すことが報告されています(L.alan Sroufe,byron Egeland The Development of the person:the minnesota study of risk and adaptation from birth to adulthood(New York:Guilford press, 2005)。
また、NYの非営利団体ターンアラウンド・フォー・チルドレンが提唱した「学習のための積み木」という理論でも、レジリエンスなどレベルの高い非認知能力の土台となると主張されているのがアタッチメント。
このように、幼少期のアタッチメントレベルとレジリエンスには強い関係性があるのです。
特にお子さんが1歳以下など幼い場合は、レジリエンスの前にアタッチメント形成に注力しましょう。
*アタッチメントについてはこちらの記事で詳しく解説しています
子どもとの間にアタッチメントを形成する方法を4ステップで解説【今日から使える!】
まとめ:挑戦をするために、レジリエンスを高めよう!
いかがでしたでしょうか?
レジリエンスの概要や重要性、そしてレジリエンスを育む方法についてご理解いただけたでしょうか?
現代は予測がつかない、レール通りに歩いても成功できない時代などと言われますが、そんな時代だからこそ、物怖じせず挑戦し、失敗から学習していく子どもは幸せになっていくでしょう。
人生設計において、ある程度失敗を組み込んでおく必要があるのです。
だからこそ、失敗して落ち込んだ状態から回復するレジリエンスは重要。
ぜひ、家庭で、できるところからレジリエンスを高めてみてください!
本記事の中で何回も紹介したこちらの本は、レジリエンスなど非認知能力について、きちんとしたエビデンスを元に理解できるのでおすすめです。
*ちなみに、The Brief Resilience Scale(Smith et al,2008)という指標でレジリエンスの強さを計測することができるので、気になった方は調べてみてください
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