・GRIT/やり抜く力って何?
・GRITはなんで大切なの?
・どうやったら子供のGRITを伸ばせるの?
本記事では、このような悩みや疑問を解決します。
記事を書いている僕は、非認知能力に関する教育サービスの開発を3年ほどしたり、プロボノとして中高生の非認知能力を伸ばすキャリア教育をしたりしています。
また、本記事はアンジェラ・ダックワース著の『GRIT やり抜く力』をベースにしています。
GRITは、粘り強く最後までやり抜く力
まず最初に、
・GRITの定義
・提唱者であるアンジェラ・ダックワース
・GRITを構成する4つの要素
を紹介します。
GRITは、粘り強く最後までやり抜く力
GRIT(グリット)は一言で言うと、「粘り強く最後までやり抜く力」です。
具体的には、「取り組む物事・課題に対して挫折をしても途中で投げ出すことなく工夫し、最後までやり抜く力」がGRITだと言われています。
またGRITは「非認知能力」に分類されます。
「非認知能力」は「数値化することはできないが、社会的成功を左右する”生きる力”の総称」で経済学者ジェームズ・ヘックマンの研究などによりその重要性が明らかになってきている概念です。
*非認知能力についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
GRITを構成する4つの要素
またGRITは、”G”, ”R”, ”I”, ””T”それぞれが頭文字になっている4つの要素で構成されています。
それがこちら。
- Guts(度胸):困難なことに立ち向かう
- Resilience(復元力):失敗しても諦めずに続ける
- Initiative(自発性):自ら目標を設定する
- Tenacity(執念):挫折しても最後までやり遂げる
この構成要素を見ると、GRITについての理解がより深まるのではないでしょうか?
GRITの提唱者である心理学者
GRITを提唱したのは、ペンシルベニア大学の心理学者であるアンジェラ・リー・ダックワース教授。
アンジェラ教授はマッキンゼーで経営コンサルタントとして働いた後、公立中学校で数学教師になりました。
そして授業をする中で、授業内容の理解が早い子の成績が必ずしも高くない一方で、ノートを地道に取り、先生に対してよく質問していた生徒の方が良い成績を納めていたことに興味を持ったのです。
この気づきを元にアンジェラ教授は大学に戻り心理学を学び、GRITの重要性を明らかにしました。
アンジェラ教授のこのようなエピソードは、TEDで話されているのでぜひ聞いてみてください。
子供の将来の社会的成功を左右するGRIT
続いて、「なぜGRITは大切なのか?」という話です。
社会的な成功を左右するGRIT
GRITの重要性を一言で言うと、「GRITの有無は、様々な才能よりも学業や社会的成功を左右するから」です。
アンジェラ教授は、以下のような場所で成功を納めた人を観察、分析しその共通点を見出そうとしました。
- 陸軍士官学校にいる士官候補生
- リゾート会員権販売会社の営業職
- シカゴ・パブリック・スクールの学生
- コミュニティ・カレッジの学生
- アメリカ陸軍特殊部隊グリーンベレーの隊員
- アイビーリーグ所属の学生
そして観察の結果、卒業後の活躍や良好な営業成績などに最も影響を与えた要素は「外向性」「情緒の安定」「学業成績」などではなく「やり抜く力(GRIT)」だったことが明らかになりました。
「達成」までのプロセスに「努力」は2回登場する
「やり抜く力」が物事を達成して社会的な成功を左右するメカニズムをアンジェラ教授は紐解いています。
具体的に、アンジェラ教授は物事を「達成」するまでに必要な要素を「才能」「努力」「スキル」と規定しています。
また、「スキル」「才能」「達成」についてはアンジェラ教授がより詳しく解説しています。
- 「スキル」 : 物事を達成するための能力で、「努力」により培われる
- 「才能」 : 「努力」によって「スキル」が上達する速さ
- 「達成」 : 習得した「スキル」を活用し「努力」することによって表れる成果
そして、「才能」「努力」「スキル」を用いて「達成」までのプロセスを式で表すと以下のようになります。
- 「才能」×「努力」=「スキル」
- 「スキル」×「努力」=「達成」
要するに、「スキル」を得るプロセス、「達成」を得るプロセス両方で「努力(やり抜く力)」が必要になるのです。
だからこそ、いくら「才能」があっても、「スキル」があっても「努力(やり抜く)」がないと「達成」を得ることができないのです。
そして「やり抜く力」は、もちろん遺伝的な影響も受けるのですが、後天的に伸ばすことができるスキルだとも、アンジェラ教授はエビデンスをベースに主張しています。
ちなみにやり抜く力は一般的に年齢と共に強くなるそうです。
GRITの重要性を裏付けるトレッドミル実験
エビデンス、という言葉を使ったので「やり抜く力」の重要性を裏付ける実験を一つ紹介します。
それが、トレッドミル実験です。
トレッドミル実験は1940年ハーバード大学で行われ、その何十年にも渡って追跡調査がされたものです。
この実験では、130名の大学2年生が集めトレッドミル(ランニングマシン)で5分走らせました。
ランニングの意図は、生徒が脱落したくなるような精神的及び肉体的な負荷を与えることでした。
結果、平均のランニング時間は4分で、1分半しか持たなかった学生もいたそうです。
また、ランニング前には、基礎体力や意志力などを計測していました。
その後2年ごとに追跡調査を行い、数十年後に参加者の
・年収
・健康状態
・結婚状態への満足度
・精神状態
などを計測しました。
実験当初の仮説は、「基礎体力と意志力両方が将来的な成功に影響する」というものでした。
ただ蓋を開けてみると、基礎体力は当時のランニングマシンの分数にも社会的成功にも影響しておらず意志力が影響していたことがわかったそうです。
アンジェラ教授の書籍『GRIT』では他にも様々な研究が紹介されているので、ぜひ読んでみてください。
注意 | GRITだけを鍛えると強情な子供になるかも
ここまでで「やり抜く力(GRIT)」の重要性をご理解いただけたと思います。
GRITを伸ばす方法に移る前に一つ注意です。
それが「GRITだけを伸ばしてはならない」と言うことです。
確かに社会的な成功を収める上でGRITは重要です。
ただし、「GRITだけ」を伸ばすことは危険です。
なぜならGRITは粘り強く物事を続けられるようになるというメリットがある一方で、
・場面によっては柔軟に方向転換できない
・アドバイスを聞かない
などの状態に陥るデメリットも存在するためです。
そのようにGRITのネガティブな側面を発揮せず、良いところを享受するには「”生きる”力全体のバランス力」が重要です。
そして「”生きる”力全体のバランス力を伸ばす」ことはすなわち、「非認知能力を育てる」ことです。
本記事のメインはGRITなので、より範囲が広い非認知能力全体の話に詳しくは触れませんが、ニューヨークを拠点とする非営利団体が提唱した「学習のための積み木」を見ても非認知能力全体を育てる重要性が理解できることでしょう。
特に年齢が低ければ低いほど、
・アタッチメント
・ストレス管理能力
・自制心
を育てることに集中しましょう。
*非認知能力の伸ばし方はこちらの記事で詳しく解説しています。
*自制心の鍛え方はこちらの記事で詳しく解説しています。
家庭、習い事でやり抜く力を伸ばす5つの方法
ここからは、やり抜く力(GRIT)を伸ばす具体的な方法を紹介していきます。
【原則】やり抜く力を強くする4ステップ
まずは、原則の理解からはじめましょう。
アンジェラ教授は『GRIT やり抜く力』の中で「やり抜く力を強くする4ステップ」を紹介していますが、それが以下です。
STEP1 興味
GRITを発揮するためには「情熱」が必須ですが、自分のやっていることを心から楽しむからこそ「情熱」が生まれるのです。
習い事でも、家庭の中のことでも、子供が好奇心を感じることを一緒に見つけましょう。
STEP2 練習
GRITを発揮するために必要なもう一つの要素は「粘り強さ」ですが、それは訓練で培われます。
だからこそ、一つの分野に深く興味を持ったら脇目を振らずに打ち込み、自分のスキルを上回る目標をクリアする必要があります。
その繰り返しでGRITが育っていくのです。
STEP3 目的
目的を持つ重要性は言うまでもないですが、GRITを持っている人の多くはより利他的な目的を持っているそうです。
つまり、「自分のため」ではなく「人のため」に粘り強く努力を続けるのです。
子供にいきなり利他的な目的を求めることは難しいですが、大人が持っている利他的な目的を夕食の時間などで話してあげることで擬似体験させる必要があるでしょう。
STEP4 希望
希望の有無は挫折体験をした際にそこから立ち直れるか否かに影響します。
物事を達成する過程ではまず間違いなく挫折を経験します。
例えば、「サッカー大会で優勝」という目標を設定しても、「スタメンから外される」という挫折を味わうこともあるでしょう。
粘り強さを発揮し頑張ることができるか否かの違いが、「希望を持っているか」なのです。
具体的には、特定の課題に対して「自分ならやり遂げらる」と思える「自己効力感」が必要でしょう。
「グリットだけを伸ばしてはいけない」と書きましたが、この「希望を持つためには自己効力感が必要」もそれを裏付ける一つの理由です。
*自己効力感は非認知能力の一つ
*子どもの自己効力感を高める方法はこちらの記事で解説しています
【方法論】やり抜く力を伸ばす5つの方法
原則を理解できたところで具体的な方法に移りましょう。
子供自身に選択をさせる
人は生きているだけで、日々数々の選択を迫られています。
簡単なものだと、
・何を着るか?
・A定食とB定食どちらにするか?
などです。
こういった選択に対して自分で答えを出していくことで、選択肢の選び方が上手くなります。
さらに、選んだ選択肢に対して努力を継続する習慣が身に付き、また新しい選択肢に挑戦する、という好循環が生まれます。
ただ、家庭によっては子供から選択の機会や、選択の結果訪れる失敗や挫折の機会を親が奪ってしまっているケースがあります。
例えば、朝幼稚園にいく前のお着替え。
複数ある靴に対して、親が「今日はこれを履きましょうね」と決めてしまっては子供のせっかくの選択の機会を奪ってしまいます。
「xxと△△があるけれどどっちを履きたい?」と選択を迫る質問をしてあげましょう。
また、例えば「雨でもない日に長靴を履いていく」という選択を子供がしたとします。
その際に、「今日は雨じゃないから長靴だと歩きにくいし転んじゃうよ。だから長靴は辞めようね」と選択肢を変え、起こるであろう失敗を先回りしてカバーしてしまうのはもったいないです。
よっぽど危険な選択ではない限り子供にそれを最後までやらせてあげましょう。
子供自身が
・「長靴だから動きにくくて友達とも鬼ごっこが楽しくなかった」
・「歩きにくくて転んで痛かった」
など選択の結果訪れる失敗を経験することにより、そこから学ぶし、挫折から精神的に立ち直る術を得るのです。
また自分で選ぶことで「内発的動機付け」が行われます。
「内発的動機付け」は、お菓子やお金など外発的な報酬ではなく、「楽しい」「もっとやりたい」など内から滲み出る気持ちをベースに物事に取り組み継続することです。
GRITを発揮するには「情熱」が必須だと書きましたが、自ら選択することで「内発的動機付け」が行われ「情熱」が生まれるのです(例えば習い事など)。
内発的動機付けとは?子どものやる気は内側から引き出そう!【外発的動機付けとの違いも解説】
「努力」「継続」「学習」「失敗」を褒める
やや抽象的に聞こえますが、キャロル・ドウェック(心理学専攻)は、GRITを身につけるためには「マインドセット」が重要であると主張しています。
具体的には、下記のようなマインドセットです。
- 知能指数は努力で改善することができる
- 新しいことを学ぶことで知能指数を伸ばすことができる
- 元々の才能や知能指数は将来の成功には関係ない
- スキルや知能指数はいつでも向上させることができる
そして、上記のようなマインドセットを持てるか否かに影響する大きな要素は「親の褒め方」です。
あなたはご自身のお子さん、もしくは関わっている子供をどのように褒めていますか?
結論を言えば、「才能」ではなく「努力」「学習」にフォーカスした褒め方を継続していれば、先述したマインドセットを身につけることができます。
褒め方には、下記の二種類があると言われています。
- 生まれ持った才能やテストの結果などを褒める「才能・能力褒め」
- 結果を出すための努力や、努力の継続を褒める「努力・学習褒め」
上記の通り「努力・学習褒め」がやり抜く力を伸ばすためには有効なのですが、反対に「才能・能力褒め」をすると一般的に子供は成長思考を失い、難しい課題に挑戦しなくなる傾向があります。
例えばテストで100点をとった際に、100点をとるために具体的な努力や勉強を継続したこと(努力・学習)ではなく100点をとったこと自体(才能・能力)を褒めたとしましょう。
そうすると子供は、「褒められるためには良い点数をとる必要がある」と学習し、次も100点をとるために「自分が100点を取れるような簡単な課題」に取り組む確率が高くなるそうです。
反対に努力・学習を褒めると、「努力・学習して失敗から学ぶのは良いことだ」と学習するのでGRITを鍛えるために必須の「より難しい課題への挑戦」をするようになっていきます。
親自身が挑戦してやり抜く姿を見せる、話す
アンジェラ教授は、GRITが育つか否かは「環境」による影響を強く受ける、と主張しています。
また『私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み、格差に挑む』によると、子供にとっての「環境」とは、「周囲の大人」です。
言わずもがな、子供が最も多くの時間を過ごす「周囲の大人」は「親」です。
学校の先生と親それぞれが子供に与える影響力を比較したところ、親の影響力は学校の先生の230倍だった、というデータもあるくらいです。
つまり、「子供がGRITを身につける」には、「GRITを持った親と過ごし、親からその姿を学ぶ」必要があるのです。
だからこそ、親であるあなた、子供に関わるあなたが、「いま、自分のスキル以上の課題に挑戦しているか?」という質問に対して常に”Yes”と言える状態で在りましょう。
そして、夕食の時間などで、その課題に対する挑戦のストーリーを現在進行形で子供に話してあげましょう。
話すことは決して綺麗な話だけでなくて良いです。
「TOIECで700点を目指しているんだけど、この前はカフェで寝ちゃった」など失敗も含めてシェアしましょう。
ただ、最後にはその挑戦を成功させて、その成功体験を、成功した瞬間に感情を付けて子供に伝えてあげてください。
またモンテッソーリ教育では、子供は「見るだけ」で学ぶ生き物とされています。
子供は話した内容だけではなく、机に座って学ぶ姿勢なども見ています。
やや精神論ですが、全力で課題を設定して、全力でその課題をクリアするための工夫をしてください。
「見るだけ」で学ぶ期間は0歳から始まっているので気を抜かないように気を付けましょう笑
GRITに関する家庭ルールを決める
アンジェラ教授の家庭では、子供とアンジェラ教授両方が守るべき「GRITに関するルール」を定めているそうです。
ルールがあることで、子供と親両方の今の状態が正解なのか否かが判定できますし、軌道修正をするときも方針が明確なのでやりやすくなります。
アンジェラ教授の家庭で適用されていたルールは下記4つです。
- 家族全員(親も)ひとつは “ハードなこと” に挑戦する
- “ハードなこと”は自分自身で選ぶ
- 挑戦する“ハードなこと” は途中で変えてもいい
- ただし高校生になったら、“ハードなこと”を2年間は続けなければならない
人間には、「ホメオタシス/恒常性(現状を変えることに対して不安を覚える性質)」と性質が備わっており、意識しないと「現状維持最高!」とう状態に陥ります。
だからこそ、家族でルールを決めて「コンフォートゾーン(自分が心地よいと感じる状態)」から抜け出す習慣を身に付けましょう。
GRITを発揮した主人公がいる小説を読む
最後に少し飛び道具的ですが、「小説を読む」というアプローチを紹介しておきます。
親がロールモデルになって最後までやり遂げる姿勢を見せる、ということは先に書いた通りです。
ただ親以外にももちろんロールモデルを持つことは可能です。
*ただベースは親なのでそこは注意
親以外のロールモデルの一つが「物語の主人公」です。
データをなどを用いた難しい説明よりもあなたの昔を思い出していただく方が早いでしょう。
小説や漫画の主人公のセリフを思い出して、辞めかかったことを思いとどまり最後までやり遂げた経験はないでしょうか?
もしそういった経験がある方は共感していただけると思いますが、何かに挑戦してやり遂げる内容が含まれた小説や伝記は、潜在意識にGRITの重要性を植え付けるのです。
ちなみに6分間の読書で68%のストレスが軽減されるというデータもあるので、子供に読書習慣を身に付けてもらうことは複数の面で有用です。
GRITを測る「グリットスケール」
GRITを身につける方法を紹介してきましたが、「うちの子(もしくは親自身)、GRITがどれくらい身についたんだろう?」と計測面での懸念を抱える方もいらっしゃるでしょう。
最後に、「グリット・スケール」というGRITを計測できるフレームを紹介します。
「グリット・スケール」では、下記のような質問に回答していきます。
- Q)新しいアイデアが出てくると、そちらに気を取られてしまう
- Q)挫折してもめげないし、簡単には諦めない
- Q)重要だと思う目標を挫折しても乗り越えた達成した
このような質問合計10問に対して、それぞれ5段階で回答していくとあなたの「グリットスコア」が計測されるのです。
*こちらのページで「グリット・スケール」にチャレンジすることができます
*英語なのでDeepLなどで翻訳してみてください
まとめ
いかがでしたでしょうか?
・GRITの定義
・GRITの重要性
・GRITを伸ばす方法
をご理解いただけたでしょうか?
先述のように、GRITは他の非認知能力とセットになって初めて本領を発揮します。
是非、非認知能力についても学び、お子さんの”生きる力”をバランスよく伸ばしてあげてください。
*非認知能力についてはこちらで図解ありで詳しく説明しています
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