- 内発的動機付けとは?
- 外発的動機との違いは?
- なんで内発的動機付けが大切なの?
- どうやったら子供の内発的動機付けをすることができるの?
本記事ではこのような疑問に答えます。
記事を書いている僕は、非認知能力に関する教育サービスの開発(3年)や、中高生の非認知能力を伸ばすキャリア・お金の教育(プロボノ)などをしています。
本記事の要点
はじめに、本記事の要点を簡単に紹介します。
以降、それぞれの項目を詳しく解説していきます。
- 内発的動機付けは、自分の内側からにじみ出る楽しさなどでやる気を引き出すこと
- 外発的動機付けは、モノやお金など自分の外側からの要素でやる気を引き出すこと
- 内発的動機によってやる気を引き出せる状態が理想
- 子どもの内発的動機付けを促進するキーワードは、自律性・有能感・関係性
- 物事の開始時、継続時に一時的に外発的動機付けを用いることは問題ない
内発的動機付けは、内側からにじみ出る楽しみや意義
はじめに、内発的動機付け、外発的動機付けそれぞれの定義を紹介します。
内発的動機付けとは?
内発的動機付けは、他人からの強制やご褒美ではなく、自分の内側からにじみ出る楽しさや意義によってやる気を引き出すこと。
少し噛み砕くと、誰に強制されなくとも、取り組んでいる物事が純粋に楽しいから続けているといった状態。
具体的には、好奇心、興味、達成感などが内発的動機になり得ます。
少しわかりにくいので、以下に例を挙げておきます。
- 勉強:気になるから、進んで恐竜の本を読む(好奇心)
- 習い事:ピアノを弾くのが好きだから、毎日欠かさず弾く(興味)
外発的動機付けとは?
一方、外発的動機付けは、外側からの要因でやる気を引き出すこと。
具体的には、報酬(お金やモノ)、罰、強制、義務感、賞賛、競争などが外発的動機となり得ます。
お金やモノで釣ることはもちろん、子供を叱るなどの罰や、他人との競争も外発的な動機に分類されます。
以下のようなケースが外発的動機付けされている状態と言えるでしょう。
- 勉強:叱られないための勉強(罰)、クラスで1番になるための勉強(競争)
- 習い事:行かないと親に何か言われるからピアノ教室に通う(強制)
外発的動機付よりも、内発的動機付けが理想
2つの動機付けについて説明しましたが、より重要なのは内発的動機です。
ここでは内発的動機が重要な理由や根拠を説明します。
理由1:内発的動機付けは、学校などにおける子供の良好な成績につながる
子どもが内発的な動機を感じている状態であれば、大人の介入がなくてもやる気を維持することができます。
具体的には、勉強なら自ら進んで学習し良い成績をおさめ、スポーツなら率先的に居残り練習をして技術や体力が向上していく、といったイメージ。
実際、「小中学生の学びに関する調査報告書」(ベネッセ教育総合研究所,2015)では、小中学生を対象にした調査で、「勉強することが楽しい」など内発的動機付けで学習している子どもの成績が高いことを明らかにしました。
理由2: 外発的動機付けが続くと、ご褒美がないと挑戦しない性格になる
一方、外発的動機を継続的に用いるべきではない理由も存在します。
それが、継続的な外発的動機は子どもの内発的動機を奪ってしまう、というもの。
もう少し噛み砕くと、ご褒美や罰によって子供を頑張らせていると、ご褒美や罰がないと頑張れない性格になってしまうのです。
この点について、内発的動機付けを提唱したエドワード・デシ(当時カーネギーメロン大学の所属)が行った実験を紹介します。
デシは、学生を2つのグループに分け、各グループに、キューブ型のパズルを組み立てる課題を出しました。
そして、以下のようにパズルを解かせる動機を日ごとに変更したのです。
- 1日目:どちらのグループにも報酬を与えなかった
- 2日目:片方のグループにだけ、パズルを一つ完成させるごとに1ドルを支払った
- 3日目:再び両グループとも報酬なし
*2日目に1ドルを渡したグループに対しては、資金が尽きたからパズルを完成させても報酬は与えられないと伝えた
結果的に、3日間通じて一度も報酬を受けなかったグループはだんだんパズルに夢中になり、パズルを解く速度を上げていきました。
一方、一時的に報酬(外発的動機)を与えられたグループは、2日目には素早くパズルを完成させたのですが、無報酬になった3日目には、初日よりもパズル完成の速度が遅くなってしまったのです。
元々学生が面白さを見出していた「パズルを解く」という行為が、外部からの報酬(1ドル)によって仕事のようになってしまい、報酬がないと頑張れなくなってしまったということ。
*デシは、同じような実験を「園児に絵を書かせる」という課題でも行いましたが結果は同じだったそう
これは、報酬によって自発的なやる気が失われる現象で、「アンダーマイニング効果」と呼ばれています(エドワード・デシ,1975)。
また、人は外部からの刺激に慣れる性質を持っているので、外発的動機付けのみで子どものやる気を引き出す場合は、次々と別の報酬を用意する必要があります。
この点を踏まえても、中心にするべきは外発的動機ではなく、内発的動機だと言えるでしょう。
子供の内発的動機付けを促すには、自律性・有能感・関係性が重要
ここからは、子どもの内発的動機付けを促すために重要な要素や具体的な方法を紹介していきます。
先に結論ですが、子供の内発的動機付けをするためには、以下3つの欲求が満たされている必要があります。
- 自律性:自分で選び、自分の意志で物事を実行したい欲求
- 有能感:自分の力で物事に取り組んだり、他者とコミュニケーションしたい欲求
- 関係性:他者や集団と関係を築きたい欲求
* 『私たちは子どもに何ができるのか ― 非認知能力を育み、格差に挑む』より
自律性
自律性は、自分で選択し自分の意志で物事を実行したいという欲求で、管理や強制とは対局にある要素。
子供が自律性を感じるためには誰かから強制されたり、管理されたりせずに自分で選択できる環境が必要です。
具体的には、2つのステップで子供の自律性を満たしてあげましょう。
ステップ1が、さまざまな体験をさせてあげること。
内発的動機が大切、とは言いましたが、子供が何も知識がない状態で特定の物事に対してやる気を感じることは難しいでしょう。
だからこそ大人が先導して、さまざまな体験をさせる中で、いわば”選択肢”を提示する必要があるのです。
世の中には、スポーツというものがあり、芸術というものがあり、友達と外で遊ぶというものがある、そんな風に世の中を体験によって教える、と言ってもいいかも知れません。
そんな体験がある程度重なってきたらステップ2に移行していきましょう。
ステップ2は、「あなたはどう思う?」「あなたはどうしたい?」と子どもに問いかけることです。
自律性を満たすためには、子どもが自分で選ぶことが大切。
だからこそ、保護者はステップ1で選択肢を提示した後、子供の意志や考えを丁寧に聞いてあげる必要があるのです。
「先週やったサッカーと今週やったお絵描き、どっちが楽しかった?」のような形ですね。
有能感
有能感は、自分の力で物事に取り組んだり、他者とコミュニケーションしたいという心理的欲求。
有能感が満たされていると、特定の課題を前にした際に「これを自分の力でやってみたい」と思えるようになります。
そんな有能感を満たすには、子どもに与える課題のレベル感が重要。
心理学者チクセントミハイ氏によると、「簡単すぎず、難しすぎない課題」が子どもを夢中にさせ、有能感を満たすことにつながるそう。
簡単すぎるとその課題自体を楽しいと思えないし、反対に難しすぎると何かに挑戦すること自体をためらうようになってしまいます。
難しいところですが、いくつか課題を与えてみてお子さんの能力を把握してあげましょう。
関係性(人とのつながり)
関係性は、他人や集団と関係を築きたいという心理的欲求。
0~3歳に親と子どもの間に愛着(アタッチメント)が形成されていないと、その後の学びに向かう力が築かれにくくなるそう。
*ベネッセ教育総合研究所と東京大学Cedepの共同研究など
反対に、「人とつながっていること」を実感できると子どもは安心しさまざまなことに挑戦するようになっていきます。
そんな関係性ですが、「教師や親に好感をもたれ、価値を認められ、尊敬されていると感じる時」に満たされる、と言われています。
*『私たちは子どもに何ができるのか ― 非認知能力を育み、格差に挑む』
少し抽象的ですが、「アタッチメント(愛着)」を形成していくことで上記の条件を満たすことができるでしょう。
*アタッチメント=人と人の間に生まれる感情的・情緒的なつながり
*アタッチメントについてはこちらの記事で詳しく解説しています
子どもとの間にアタッチメントを形成する方法を4ステップで解説【今日から使える!】
具体的には、下記の記事で2つの方法を詳しく紹介しているので、ぜひ読んでみてください。
①子供のシグナルに敏感になり、リアクションする
②大人自身のストレスを減らし、余裕を確保する
おすすめ記事:複数の非認知能力をまとめて伸ばす2つの方法【アタッチメント形成】
とはいえ、外発的動機付けが必要な場面もある
ここまで読んでいただいた方は、内発的動機付けの重要性やその促進方法についてご理解いただけたかと思います。
とはいえ、「常に内発的動機付けだけで子どものやる気を引き出すことはできない、、、」と考える方は多いのではないでしょうか?
そこで最後に、外発的動機付けは一時的なら問題ないこと、そして活用タイミングやおすすめの外発的動機について解説します。
外発的動機付けが必要になる2つのタイミング
子どものやる気を引き出す際、外発的動機付けが必要になってくるタイミングは大きく分けて2つあります。
- 物事を0から始めるタイミング
- 興味を持って始めた物事が退屈な局面を迎えたタイミング
1, 物事を0から始めるタイミング
子どもの年齢が幼ければ幼いほど、「物事を始めるタイミング」で外発的な動機付けが必要になるでしょう。
幼い子どもはそもそも世の中の物事を知らないですよね?
人間、知らないことに対して興味を持つことはできません。
そのため、大人が介入してさまざまな経験をさせ、まずは世の中の物事を知る必要があります。
実際、名古屋大学の陳恵貞氏は、「そもそも乳幼児は、内発的な動機で何かを実行することは難しい」と述べています。
*「幼児の内発的動機づけを育てる一保育者の関わり方への提案一」(陳恵貞,2012)
2, 興味を持って始めた物事が退屈な局面を迎えたタイミング
2つ目は、物事の継続タイミング。
子どもが興味を持って始めたことでも、どうしても退屈な局面は訪れます。
慶應大学大学院の高橋俊介教授は、そんな退屈な局面の例として「反復練習」をあげています。
反復練習とは例えば、漢字を覚えるために同じ漢字を書いたり、プログラミングを習得するために似たようなコードを書いたりといった行為。
高橋教授は、そんな学習における退屈な局面は外発的動機の出番だ、と述べています。
なるべく、お金や物理的な報酬は避ける
では、実際にどんな外発的動機を用いれば良いのか?という話に移ります。
結論、お金や物理的な報酬は避け、なるべく「形がないもの」、特に「褒め言葉」を用いることがおすすめです。
特に自己肯定感が低い子どもは、無意識に自分の可能性を狭め、内発的動機を抱きにくくなっています。
そんな時に子どもを勇気づけ自己肯定感を高めることができるのは、親しい人からの褒め言葉。
*親しいとは、ここではアタッチメント形成がされている大人を指します
ただ、褒め方によっては子どもの成長を阻害してしまうので注意しましょう。
具体的には、『「学力」の経済学』など複数の教育関連書籍を見ていると、下記4つのポイントを抑えた褒め言葉は子どもの能力や意識を改善する傾向にありそうです。
- 結果ではなく、過程を褒める
- 抽象的ではなく、具体的に褒める
- 時間をあけず、直後に褒める
- 他人ではなく、過去のその子どもと比較して褒める
また、『「学力」の経済学』では褒め言葉以外にも、トロフィーなど子どものやる気を引き出すことにつながる象徴もおすすめされています。
ただ物理的なものは前述のようにあまりおすすめではないので、褒め言葉など形がないものを中心に、それぞも子どものやる気を引き出すことが難しい際に使ってあげてください。
【まとめ】内発的動機付けができる子どもに育てよう!
いかがだったでしょうか?
・内発的動機付けと外発的動機付けの違い
・内発的動機付けの方法
・外発的動機付けを用いるタイミングや注意点
などをご理解いただけたでしょうか?
内発的動機付けができると、子ども時代だけではなく大人になってからも健全なモチベーションを保つことができます。
仕事も、「お金がもらえるから」だけではなく「楽しいと思える仕事を選んでいるから」という理由で頑張れることが理想ですよね?
ぜひ、子どものうちから内発的動機付けを習慣化してあげてください!
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