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- アタッチメントってなに?
- なんで親子にとってアタッチメントは大切なの?
- 子どもとの間にアタッチメントを形成するにはどうしたらいいの?
本記事ではこのような疑問に答えます。
記事を書いている僕は、非認知能力に関する教育サービスの開発(3年)や、中高生の非認知能力を伸ばすキャリア・お金の教育(プロボノ)などをしています。
アタッチメントは、人と人の間に生まれる感情的なつながり
アタッチメントは、発達心理学などの分野で注目されている概念で、「人と人の間に生じる感情的なつながり」のこと。「愛着」「心の安全基地」などとも呼ばれています。
アタッチメントは特に乳幼児期に重視されており、親と子ども、保育士と子どもの関係性の中で語られることが多いです。
そんなアタッチメントが注目されはじめたのは、1950年代。
イギリス・カナダ・アメリカの研究者が、生後12ヶ月の内に温かく気配りの行き届いた子育てを経験した子供は親と強いつながりを築くことを発見したことがきっかけでした。
アタッチメントの重要性については後述しますが、子どもと親との間にアタッチメント形成がされている場合、子どもは「自分は愛されている」「自分はここに居てもよい」と感じることができ、結果的に自己肯定感や好奇心が育まれていきます。
アタッチメントは、「非認知能力」の土台になる
続いて、アタッチメントの重要性について解説します。
結論から書くと、アタッチメントは、自己肯定感、コミュニケーション能力、最後までやり抜く力(GRIT)など「人生を生きる上で必要な能力(非認知能力)」の土台だから重要なのです。
1歳時点のアタッチメントが、その後の生きる力に影響
先述のようにアタッチメントは、生きていく上で必要とされている能力のほとんど全てに影響を与えます。
具体的には、好奇心、自己肯定感、自制心、コミュニケーション能力など。
アタッチメントと非認知能力の関係性を紐解いたミネソタ大学の研究を紹介します。
ミネソタ大学は、1970年代から長期間、乳幼児とその家族を対象に調査を行いました。
その結果、1歳時点で母親との間に安定したアタッチメントが見られた子どもは、そうでない子どもと比べ、下記のようなポジティブな傾向が見られたそう。
- 幼稚園:注意深く物事に集中することができる
- ミドルスクール:好奇心とレジリエンスが強い
- 高校:中退率が低い(物事をやり抜く可能性が高い)
*レジリエンスについてはこちらの記事で詳しく解説しています
レジリエンスの高い子どもに育てる4つの方法。心の回復力を育てよう!
また日本アタッチメント育児協会も、アタッチメントについて下記のように述べていることから、その重要性が読み取れるでしょう。
子育てに関係する知見は、臨床心理学や脳科学、教育学、社会学など、多岐にわたります。しかし、これらの学問分野を「子育て」という軸で解釈すると、すべては「アタッチメント」に行き着きます。
アタッチメントは、非認知能力の土台
先ほど、好奇心・レジリエンスなどについて触れましたが、これらは近年注目されている「非認知能力」に含まれます。
アタッチメントは、そんな非認知能力の土台となる要素なのです。
解説を加えると、非認知能力は、「数値化しにくいが、社会的成功を収める上で重要な能力群」。
IQや偏差値などで表される「認知能力」と対をなす概念です。
*非認知能力についてはこちらの記事で詳しく解説しています
子供の将来を左右する「非認知能力」とは何か?【脱・学力偏重】
好奇心、レジリエンス以外にも、自己効力感、好奇心、やり抜く力(GRIT)などが非認知能力に分類されます。
*非認知能力に該当する各能力について、こちらの記事で紹介しています
非認知能力に含まれる能力一覧!【自制心/メタ認知/GRITなどを紹介】
さて、そんな非認知能力とアタッチメントの関係性を示す研究や主張が、上記のミネソタ大学の研究以外にも存在しています。
その中で、本ブログで何回も取り上げているのが「学習のための積み木」という概念。
「学習のための積み木」はニューヨークを拠点とする非営利団体ターンアラウンド・フォー・チルドレンが提唱したもので、「子供の能力には伸ばす順番がある」ことを示唆しています。
こちらが「学習のための積み木」です。
先ほど紹介した好奇心、レジリエンスなどの非認知能力が並んでいますが、ポイントは能力が積み上げられている点。
このように能力が”積み上げられている”ことから「学習のための”積み木”」と言われているのですが、それが意味するのは「より下の方にある要素から育む必要がある」ということ。
具体的には、本記事のメインテーマであるアタッチメント、そしてストレス管理能力、自制心を何よりも先に育むべきなのです。
*自制心についてはこちらの記事で詳しく解説しています
子供の自制心を鍛える5つの方法を紹介【今日から実践可能!】
*ストレスに対処する力(ストレスコーピング)についてはこちらの記事で詳しく解説しています
ストレス発散より大切!子どものストレスコーピングを育む方法
反対に言えば、レジリエンス、好奇心、実行機能などレベルの高い非認知能力は土台が築かれていなければ伸びにくいので要注意。
子どもとの間にアタッチメントを形成する4ステップ
ここまでで、アタッチメントの定義とその大切さについてご理解いただけたかと思います。
続いて紹介するのは、子どもとの間にアタッチメントを形成する方法。
まずは原則を紹介した後に、4ステップでアタッチメントを形成する方法を解説していきますね。
【原則】子どもが「安心」「ここが居場所」と感じられるか?
以降、アタッチメントを形成する4ステップを紹介しますが、紹介するのはあくまで「統計的に有効と認められた方法」。
「統計的に有効ならそのまま従えばいいのでは?」と思うかもしれませんが、実はそんなことはないんです。
統計的に有効というのは、あくまで「子どもが100人いたらその中の70人には有効(70%の場合)」というニュアンス。
ということは、上記の例で言うと「残りの30人(30%)」には有効ではないのです。
このように統計は、「多くの人に当てはまる確率が高い」ことを示す手段。
もちろん統計的に有効な情報を知ることは前提ですが、関わるお子さんに合わせたカスタマイズが必要です。
ご自身が関わるお子さんが上記でいう「残りの30人(30%)」かもしれないので。
とはいえ、信じるものがない状態でのカスタマイズは難しいと思うので、シンプルな原則をお伝えしておきます。
具体的には下記の通り。
子どもは、「この場所は安全で安心できる」「自分の居場所はここだ」と感じられる人間関係の中でアタッチメントを形成していく。
要するに、あなたが子どもにとって「安心できる存在」「居場所」になっているかが何よりも重要ということ。
原則を踏まえた上で以降の4ステップを見ていきましょう!
- ステップ1:大人が日頃からストレスマネジメントを行う
- ステップ2:子どもとの身体的な接触を増やす
- ステップ3:子どものシグナルに細かく反応する
- ステップ4:子どもとのやりとりを動画に残して振り返る
ステップ1:大人が日頃からストレスマネジメントを行う
「子どもとの間にアタッチメントを形成する」と言っても、まず働きかけるべきは子どもではありません。
あなた自身です。
より具体的には、あなたが抱えているストレスです。
理由はシンプルで、大人側に余裕がないと正しい情報を知っていても、正しく実行できないから。
例えば、「子どもに怒らないように」と頭では分かっていても、仕事で疲れていてつい子どもに対して冷たい口調になってしまったことはないでしょうか?
大人がストレスフルな状態だと、知識があってもどうしようもないのです。
デラウェア大学の心理学者メアリー・ドージアは、「大人のストレス値を適正に保つと子どもの非認知能力が伸びる」という仮説を立て、とあるプログラムを提供しました。
具体的には、「アタッチメントと生物学的行動の回復支援(ABC)」と呼ばれる家庭訪問プログラム(以下、「ABCプログラム」)。
ABCプログラムでは、親や里親が幼い子どもとの密度の高いつながりを築けるように、専門家が家庭を訪問し、コーチングを中心とした支援を行いました。
主な支援対象は親で、子どもに対する日々の良い行動に気づかせたり、アタッチメントを強める行動を褒めたりする中で、ストレスを減らしつつアタッチメント形成を促進しようとしたのです。
少しわかりにくいと思いますが、例えば下記のような声がけを親に対して行ったそう。
- 「子どものつくったきっかけに上手に反応したわね」
- 「子どもが泣き出した時、あなたはこの子のおでこを撫でた。いい対応だった。愛情のこもった仕草ね。」
上記のような支援を合計10回行った結果、親のストレス値(コルチゾールというストレスホルモン)が異常値を示さなくなったそう。
かつ、親だけではなく子どものストレス値も正常になったり、アタッチメント形成のための正しい行動を実行できるようになったりと、「愛情にあふれる家庭」に変わっていきました。
繰り返しますが、「正しい知識を身につける」「子どもに対して一生懸命に働きかける」こともとても大切ですが、それ以上に「自分の心をいたわってあげる」ことが大切なのです。
むしろ、初期は「自分の心をいたわる」ことが子どものためにもなるのです。
本ブログ(非認知能力lab)では、親のストレスを軽減する方法としてさまざまな方法を紹介していますが、特におすすめなのが「ジャーナリング」。
自分のストレス原因とその対策を書き出すことが理想ですが、ジェームズ・W. ペネベーカー教授は、自分の感情を書き出すだけでもストレス指数が改善することを証明しています。
*『こころのライティング―書いていやす回復ワークブック』
*ジャーナリングについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
【対策】ジャーナリングで親の自己肯定感を高める
ちなみに、ストレスマネジメントと聞いてアルコールを連想する方がいますが、むしろストレス指数を悪化させることが研究で分かっているので辞めましょう。
ステップ2:子どもとの身体的な接触を増やす
自身のストレスマネジメントができたら、いよいよ子どもとの関わり方に目を向けるステップです。
ここでのアドバイスはシンプルで、「子どもとの身体的な接触を増やしましょう」というもの。
子どもは、スキンシップによって「親に守られてる」「ここ(親)が居場所だ」という感情を抱きやすくなるのです。
少し専門的ですが、スキンシップをすると「オキシトシン」という脳内物質が分泌されます。
オキシトシンは、ネガティブな感情を抑える効果があり、子どもが日常的に抱く不安や恐怖を軽減することができるのです。
また、スキンシップをするとオキシトシンだけではなく、心を安定させる「セロトニン」や、やる気を引き出す「ドーパミン」も出やすくなります。
具体的には、以下のような行動を心がけてみましょう。
- 家に着いたら子どもを抱きしめる
- 歩いている時に手をつなぐ
- 嬉しいことがあったらハイタッチ
- 子どもを膝の上に乗せながら読み聞かせ
ステップ3:子どものシグナルに細かく反応する
子どもとの身体的接触を増やせたら、もう少しステップアップ。
子どもが発するシグナルに対して細かく反応してみましょう。
子どもは、何かしら発信したり失敗したりした瞬間に、大人からのリアクションが返ってくるか不安になります。
そこで、あなたがリアクションをしてあげると、安心感を抱きアタッチメントが形成されていきます。
例えば、『私たちは子どもに何ができるのか』では下記のような事例が挙げられています。
- 子どもが犬を見て「ワンワン」と言ったら、大人はそれに対して「そうね、ワンワンね」と繰り返す
- 子どもが何かを見つめていたら、大人は「扇風機が見えたの?」と対象を確認する
また、ベネッセが実施した「乳幼児の生活と育ちに関する調査」(2017-2020)は、下記4つを意識したやりとりがアタッチメント形成につながることを明らかにしています。
- 敏感さ
子どもが発する感情を細かく捉えて反応する - あたたかさ
抱きしめる、くすぐるなど子どもの心があたたかくなるようなかかわり - やりとり遊び
童謡を一緒に歌うなど親子のやりとりが多く求められる遊び - 意欲の尊重
2歳以降は、子どもがやりたがっていることを途中で中断せず近くで見守る
ステップ4:子どもとのやりとりを動画に残して振り返る
最後のステップは、日々の子どもとの関わりを振り返り改善する仕組みの導入です。
具体的には、「子どもとのやりとりを動画に残して振り返ろう!」というアドバイス。
動画に残して振り返る理由は2つ。
- 「正しい知識」と「正しい実践」は別
- 自分ができている良い関わりを自覚すると自信につながる
理由1:「正しい知識」と「正しい実践」は別
ここまで読んでいただいた方は、アタッチメントに関する最低限の知識と、アタッチメント形成の基礎的な方法を押さえていると思います。
ただ先述したように、正しい情報を知っていることと、それを正しく実践できるかどうかはまた別の話。
だからこそ、子どもに対する働きかけを客観的に把握する手段を持っておく必要があります。
それが、日々の子どもとのやりとりを動画に残しておくこと。
既に正しい知識はあると思うので、その知識と動画の中の自分の働きかけを比較してみましょう。
できている部分は認め、できていない部分は改善していくのです。
理由2:自分ができている良い関わりを自覚すると自信につながる
一番目の理由(動画を見て改善)だけを読むと、自分で自分の粗探しをするように感じて動画を見返すことが苦しくなるかもしれません。
ただ、動画を見返すことは本来、自分のポジティブな感情につながるのです。
特に日本における子育てはどんなに知識を得て実践しても、それを褒めてくれる人はほとんどいませんよね?
だからせめて、自分で自分を褒めて、親自身のストレスを減らしたり、自己肯定感を高めたりする必要があるのです。
*可能であればパートナーと動画を一緒に見返して褒め合うことをおすすめします
実際、オレゴン大学では親子のやりとりを動画で撮影する取り組みが行われました。
具体的には「FIND」という施策で、アタッチメント形成に悩む家庭における親子のやりとりを撮影し、その中でアタッチメント形成に寄与する行動を専門家が指摘しました。
例えば、母親が子どもを抱きしめたら、「いいね。この行動を続けましょう。」といったイメージ。
結果的に、施策の対象となった家庭ではアタッチメント形成に寄与する働きかけが増加したそう。
ただ、残念ながらあなたには専属の専門家はいないでしょう。
だからこそ、本ブログや書籍などを通して正しい知識を身につけ、自身で動画をとり、客観的な視点で確認するのです。
可能であれば、動画を見ながら自分もしくはパートナーの「アタッチメント形成に寄与するような働きかけ」を言語化しノートに記録してみましょう!
*『私たちは子どもに何ができるのか』という書籍がアタッチメントの理解に役立ちます。ぜひ読んでみてください。
【まとめ】アタッチメント形成を今日から始めよう!
いかがだったでしょうか?
アタッチメントの概要や重要性、そして子どもとの間にアタッチメントを形成する4ステップについてご理解いただけたでしょうか?
いきなり全てを正しく理解して実践することは難しいと思います。
大切なことは、子どものため、そして自分のためにエビデンスに基づく正しい知識を習得し、それを正しく実践できる「仕組み」を持つことです。
今回の記事で言えば「動画に残す」などですね。
一歩一歩、前進していきましょう!
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