【要約】FACTFULNESS | 間違った認識を生む10個の本能

BOOK

 「社会課題を解決する仕事に就きたい」、そう思って僕は就職活動をしていました。今でもその思いは変わりません。
 しかし本書を読んで、「世界を変えたいと言っている割に自分は世界のことを何も知らない。」ということに気づかされました。しかもややこしいことに、本書を読むまで僕は「自分は世界について知っている方だ。」と思い込んでいたのです。
 当時の僕と同じように、「世界のことを知っている。」と考えている方は多いのではないでしょうか?
 ぜひ、本書の最初にあるいくつかの問いに答えてみてください。
 世界の事実を知ると、「自分たちは何も知らなった。」ということに気づく方が多いと思います

本記事の内容
①なぜ世界に関する事実を知る必要があるのか?
②なぜ僕たちは世界を事実ベースで見ることができないのか?
③さあ、世界に関する事実を見て固定概念をぶっこわそう!


①なぜ世界に関する事実を知る必要があるのか?

 この問いへの回答は明確かつシンプルです。それは、「世界に関する間違った知識を持った人間が世界の問題を解決できるはずがない。」からです。

 僕は大学時代、「社会課題を解決する仕事をしたい。」と豪語し、就職活動をしていました。当時、世界の社会福祉や社会事情を勉強したり、留学をしたりしていた僕は、「自分は世界について比較的よく知っている方だ。」と思っていました。

 しかし社会人になって、僕は全く世界のことを知らなかったと思い知らされました。

 本書は、そんな「自分に世界について知っている。」という思い込みを吹っ飛ばしてくれる13の質問から始まります(下記に例として3問を記載)。

Q1,現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう? A,20%/B,40%,C,60%

Q2,世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょうか? A,低所得国/ B,中所得国/C,高所得国

Q3,世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?A,約2倍になった/B,あまり変わっていない/C,半分になった


 このような問題が13問続きますが、人間の正解数は平均2/12問だそうです。これは、鉛筆を転がして正解を選ぶ(4/12問)よりも低いです。これが僕たちの知識に関する事実です。僕たちは世界について1/3も正しい知識を持てていないのです(本書の質問に基づくと)。

 上記の結果になるのはもちろん勉強不足もありますが、それであれば正解率は1/3になるはずです。正解率が適当に回答を選ぶ1/3を下回るのは、「人間が世界を見るときの10個の錯覚」のせいだと筆者は述べています。

 本書を読んでいくうちに、冒頭にある13の質問にまつわる世界の事実と、今後錯覚なしに世界を見ていくときに必要なポイントを知ることができます。

 


②なぜ僕たちは世界を事実ベースで見ることができないのか?

先ほどのパートで、人間が世界を見るときに発生する「10個の錯覚」について触れました。本パートでは、その錯覚を一つ一つ紹介していきます。

1,分断本能

 様々な物事や人々をつい2つのグループに分け、その2つのグループの間には決して埋まることのない溝が存在すると思い込む。これが「分断本能」です。

 代表的なものが、「先進国」と「発展途上国」のような、「金銭的な豊かさ」で世の中を2分する分断本能です。その他にも、いいか悪いか、正義か悪か、自国か他国か等僕たちはシンプルに世界を考えられるよう、気づかないうちに世界を2つに分けています。

 この「分断本能」を抑えるためには下記のことに注意すべきです。

  • 平均との比較:平均という数字を用いた瞬間に、全体の「分布」が見えなくなってしまいます。例えば2つのグループの平均を見ると大きく離れているような結果が出るけれど、分布で見るとその2つのグループには重なっている部分があるかもしれません。綺麗に2つの分断されるケースは少ない為、平均というひとくくりにされた数字よりも、分布という一人ひとりの数字を見るようにしましょう。
  • 極端な数字の比較:全体が100のサンプルである集団の1番目と100番目だけを取り出したような極端な数字の比較に気を付けましょう。大半の人はその両極端な数字の中間にいます。
  • 上からの景色:人は自分が経験した範囲でしか物事を理解することができません。1日32ドル以上の生活ができる日本に生まれた僕たちは1日1ドル以下で生活している国の生活を本当の意味では理解できないのです。だからこそ、自分とは違う環境や価値観を体験して理解する、そのうえで、自分以外の視点や生活を鑑みた「上からの景色」で世界を見るべきです。

2,ネガティブ本能

 人は物事のポジティブな面よりも、ネガティブな面に注目するようにできています。それゆえに「世界はどんどん悪くなっている」という勘違いを生んでしまうのが「ネガティブ本能」です。

 「ネガティブ本能」は、下記の3つの要因によって刺激されます。

  • あやふやな過去の記憶(頭の中で勝手に過去を悪い思い出に変換)
  • ジャーナリストや活動家による偏った報道(報道され人の印象に残るのは悪いニュースが多い)
  • 状況がまだ悪いときに「以前と比べたらよくなっている」と言いにくい空気

ネガティブ本能」を抑えるためには、「悪いニュースのほうが広まりやすいが、実際は”悪い”と”よくなっている”は両立する“こと」に気づく必要があります。

  • 「悪い」は現在の状態で、「よくなっている」は変化の方向性。その2つが両立することを念頭に置きつつ、現状を見極められるようにしましょう
  • 良い出来事はニュースになりにくい為、悪いニュースを見たときは、「同じくらい良い出来事があったら自分のもとに届くか?」と考えましょう
  • ゆっくりとした進歩は報道されにくいことを常に念頭に置きましょう
  • 悪いニュースが増えても悪い出来事が増えたとは限らないことに気づきましょう
  • 人々は過去を美化し、今を批判する傾向にあるため、過去と今を数値で見られるようにしましょう

3,直線本能

 人はグラフを見ると、その見えない部分はひらすらまっすぐのびていくと考える。これが「直線本能」です。
 直線本能のせいで人は、世界の人口増加のグラフを見たとき、「世界の人口はひたすらに増え続ける」という勘違いをしてしまいます。

 「直線本能」を抑えるためには、グラフの見方に関する下記2点に気を付ける必要があります。

  • グラフには直線以外に様々な形があることを意識しておく
  • 自分がいま見ているグラフはグラフ全体のどこの部分か、を考える

4,恐怖本能

 「恐怖本能」とは、恐ろしいものに自然と目が行ってしまう本能のことです。

 この本能を刺激するかのように、メディアでは連日「身体的な危害」「人間の拘束」「目に見えない有害物質」等のニュースを報道します。
 ただし、メディアが広告収入でより多くのお金を得るには視聴率を稼ぐ必要がある為、自然と人が見につきやすい(恐怖本能を刺激するような)情報を報道することは仕方ないのです。

 だからこそ、僕たちは「恐怖本能」にとらわれないために下記の点に気を付けることが必要です。

  • ニュースの見出しの裏に隠されている事実を知る
  • リスクを正しく計算する:恐ろしいけれど起こる確率が低いものばかりにおびえていても仕方ない。リスクは「危険度」と「頻度」の掛け算であり、その式に基づきリスクを正しく計算することが事実を見つめるために必要
  • 行動する前に落ち着く

5,過大視本能

 「過大視本能」は、目の前にある数字が最も重要だと思い込む本能です。

 例えば、極度の貧困地域では、病院での治療に力を入れるよりも、その地域の衛生環境を整えることに従事したほうが全体的な子供の生存率は向上します。つまり、病院での子供の死亡率(生存率)よりもその地域全体での子供の死亡率(生存率)に注目すべきなのです。

 「過大視本能」を抑えるためには、下記の点に気を付けるべきです。

  • 比較:一つの数字ではなく、ほかの数字と比較し、できれば割り算をして「一人当たり」の数字を出す
  • 8:2ルールを使う:項目が並んだらまずは最も大きな項目だけに注目する


6,パターン化本能

 人はいつも、何も考えずに物事をパターン化し、そのパターンをすべての事象に当てはめてしまう。これが「パターン化本能」です。

 「先進国」と「発展途上国」という世界を2つに分類したパターンがいい例です。

 想像すれば容易にわかることですが、「発展途上国」の中には、1日1ドル以下で生活する絶対的貧困の人も、1日10ドルで生活する人もいます。

 「パターン化本能」は、上記のように、本当は複雑な集団構成に対して、「あの人たちは同じ」のような決めつけをして、当該集団に対する勘違いを生みます。

(その間違いに多くの人が気づいている状態が、「ステレオタイプ」です)

 「パターン化本能」を抑えるには、「間違った分類に気づき、より適切な分類に置き換えること」が必要です。

  • 認識を置き換えるためにできるだけたくさん旅をして、ツアーで組まれていないような海外のローカルな生活を味わう
  • 旅ができない人は下記の5点に気を付ける
    • 同じ集団の中の違いと、違う集団の間に共通点を探す
    • 49:51かもしれない過半数に気を付ける
    • 例外に惑わされず、違う例や逆の例を聞いてみる
    • 1日32ドル以上の生活をしている僕たち普通でそれ以外は僕たちよりもアホという間違いを捨てる
    • 一つのグループの例がほかのグループにも当てはまらないかを確認する

7,宿命本能

 持って生まれた宿命によって人や国や宗教や文化の行方は決まるという思い込みを「宿命本能」と呼びます。

 「宿命本能」は歴史上、王座等地位ある集団がその立ち位置を維持することには非常に約に立ちました。なぜなら、どんなに貧しい一族に生まれた人でも、それが宿命だと納得すれば反乱等を起こす確率が下がるからです。その代表的なものがインドの「カースト制度」です(*カースト制度の誕生の原因は、アーリア人が原住民の持つ謎の感染症に感染することを恐れたことだとされています)。

 「宿命本能」を抑えるためには、下記の点に気を付ける必要があります。

  • ゆっくりした変化でも変わっていると認識する(1年間の変化率だけに惑わされない)
  • 社会科学の知識には賞味期限があるため、知識を頻繁にアップデートする
  • 昔と今の変化を正しく把握するため、祖父母に話を聞く
  • 昔と今で文化が変わった事例を集める

8,単純化本能

 「単純化本能」は、世の中の様々な問題に一つの原因、そして一つの回答を当てはめてしまう傾向です。

 この「単純化本能」を避けようと思うのであれば、下記の点に気を付けるべきです。

  • 自分が肩入れする意見や考え方の弱みを探すため、意見が合わない人や反対している人に会い、自分とは違う人の考え方を取り入れる
  • 数字は大切だが、数字だけではじき出された数字や結論や仮設は疑ってかかる
  • 「個人の自由」等数字には表しきれない(人によって評価が異なる)概念があることを認識する

9,犯人捜し本能

 「犯人捜し本能」とは、悪いことが発生したときに、単純明確な理由を見つけたくなる傾向のことです。

 この「犯人捜し本能」のままに行動してしまうと、悪いことが発生した際にだれかを責めることに気が向きます。そうすると、問題解決の為の思考が止まってしまうのです。

 さらに悪いことに、仮に犯人を見つけたとしても本来の問題は解決しません。なぜなら、現実の問題ははるかに複雑で犯人を見つけただけでは根本的な解決には至らないからです。

 「犯人捜し本能」から身を守るためには、問題が発生した際に、犯人捜しをするのではなく、その社会の根幹にあるシステムの改善点を見つけるようにしましょう。

 

10焦り本能

 「焦り本能」は、今すぐに決めろと急かされると、批判的に考える力が失われとっさに判断して行動してしまうことです。

 「焦り本能」は原始時代など、(肉食動物等の)物理的な危険に囲まれている時代の人間にとっては非常に役に立ちました。しかし、現代において焦りで動くことは、一歩引いてみればわかるような不正解な選択肢を選んでしまうことにもつながります。

 「焦り本能」を抑えるためには以下のことに気を付けましょう。

  • 深呼吸しよう:今やらなければならないことはほとんどないし、選択肢は大体二者択一ではない。
  • データにこだわろう:緊急で重要なことこそ、データを見るべき。
  • 極端な発言をする占い師には気を付けよう:未来の予測には幅があることを心に留め、未来は最高のシナリオか最悪なシナリオだけではないと覚えておこう。
  • 過激な対策に気を付けよう:大体は地道な一手の効果が大きい。その過激な一手をとった場合の副作用も合わせて考えよう。

 ちなみに上の図解は、僕はパワーポイントで制作したものです。
図にすると少しわかりやすく、そして覚えやすくなりますよね?
図解の方法や意義についてはこちらの記事で説明しているので、もしよかったらみてみてください。

 また、パワーポイントで企画書をいかにきれいに作るか、についてはこちらで説明しています。

 


③さあ、世界に関する事実を見て固定概念をぶっこわそう!

先ほどのパートでは、僕たちが世界を見るときに発生する10個の本能とそれらを防ぐ方法についてご紹介しました。最後に、本書で紹介されている世界に関するFACT(事実)を見て本当の世界を知りましょう。

1,分断本能を覆すFACT

 世界で最も多くの人が生活しているのは、低所得国ではなく、「中所得国」です。

 具体的な数字を見ていきましょう。2017年のデータを見ると、世界は所得によって大きく4つに分けられます。「先進国」と「発展途上国」という2つではなく、「所得レベル1~4」の4つです。

  • レベル1:1日1ドル以下で生活する絶対的貧困層。世界に約10億人。
  • レベル2:1日4ドルで生活。レベル1に比べると生活はよくなったが将来に不安が残る。世界に約30億人
  • レベル3:1日16ドルで生活。食料の共有が安定し毎日違うごちそうが食べられる。貯金もあり旅行も可能。世界に約20億人
  • レベル4:1日32ドル以上で生活。僕たちの普段の生活です。世界に10約億人。

 「高所得国」と「低所得国」、「先進国」と「発展途上国」。世界は2分されていると思われがちですが、データの分布をみると、大抵の場合その2つの間には中間が存在します。

2.ネガティブ本能を覆すFACT

 直近20年間、人類史上最も早い速度で極度の貧困がなくなっていて、人類が生きることに必死にならなくてもいい時代がとうとうやってきました。

 先ほどの「所得レベル1~4」でいうと、人類はみんなレベル1からスタートし、1966年まで、大抵の人はレベル1の生活をしていました。
 しかし、今や6/7の人類が「中所得国」以上で生活しています。

3,直線本能を覆すFACT

 子供の生存率が延々と増え続けると、人口が増えて人類が滅びると思われているが、実際には子供の生存率が上がっても人口はひたすらに増え続けることはありません。

 子供の生存率があがると、親は生む子供の数を絞ります。だから、子供の生存率が上がったら人口が増え続けるということは間違いで、実際には親が生む数を減らすことで「この世に生を受けたのに命を落とす子供」の数が減るのです。とても素晴らしいファクトです。

4,恐怖本能を覆すFACT

 最近、自然災害の報道が増え、「世界は災害であふれている。しかも災害が起きたらなすすべがない。」というように、僕たちの恐怖本能が刺激されています。

 しかし、データを見てみると、自然災害による死亡者数は、100年前と比べると1/4になりました。これは、多くの国がレベル1から脱出した影響です。国が豊かになれば災害に備えることができるようになります。

5,過大視本能を覆すFACT

 病院における死亡率は確かに重要な数字ですが、それよりも重要な数字はその地域での死亡率です。

 特にレベル1や2の国では子供生存率が伸びる要因は病院の外にあります。特に母親の影響は大きく、母親の識字率が上がれば、母親が子供に与える薬の表記が読めるようになり、正しい処方ができるようになります。

 そのようにして、多くの子供が命を落とさなくなったのはそもそも子供が重い病気にかからなくなるようにしたからなのです。

 だからこそ、病院に引きこもってその病院内での死亡率だけを過大視するのではなく、数字を比べてみることが重要なのです。

6,パターン化本能を覆すFACT

 1974年、世界で「赤ちゃんは吐いて窒息する恐れがあるから仰向けに寝かせてはならない」という指針が出されました。

 これは、第二次世界大戦と朝鮮戦争で、戦場から運ばれてくる兵士の中であおむけよりもうつぶせの人の生存率が高かったことに依拠した指針です。兵士はあおむけに寝ていると、自分の吐しゃ物で窒息することがおおく、うつぶせになっていると吐しゃ物が口の外に出て起動がふさがれないのです。

 しかし、これは赤ちゃんには当てはめてはいけない「パターン」でした。

 なぜなら、意識のない兵士とは違って、寝ている赤ちゃんは反射神経が働いてあおむけでも横を向いて吐き出せます。しかし、筋力が発達していないため、うつぶせになっていると自力で重い頭を動かして気道を確保することができないのです。

 上記のように、きちんとした検証を行わずに、一度見つけた「パターン」をとりあえず他にも当てはめてしまうことは危険です。

7,宿命本能を覆すFACT

 極度の貧困(1日1ドル以下で生活)から抜け出す順番が最後になるのは、紛争地域やその周辺にいる農民です。ただその原因は宗教や文化等宿命的なものではなく、やせた土地と紛争です。

 中国もベトナムもインドも、ひどい飢饉や紛争があった時代には経済発展等あり得ないと思われていましたが、今や世界経済をけん引する存在になっています。

8,単純化本能を覆すFACT

 民主主義は、国家を運営する手段として優れていると思われており、民主主義でなければこういった恩恵を受けられないと思っている人は多数います。

 しかし、データを見てみると、急激な経済発展を遂げた国のほとんどは民主主義ではありません。韓国は世界のどの国よりも急速にレベル1からレベル3に進歩しましたが、その間ずっと軍の独裁政治が続いていました。2012年から2016年の間に経済が急拡大した10か国のうち、9か国は民主主義のレベルがかなり低い国です。

9,犯人捜し本能を覆すFACT

 「地球温暖化を引き起こしているのはインドや中国やそのほか所得レベルの上がっている国だ。その国の人たちは我慢して貧しい暮らしを続けるべきだ。」、こういった主張がたびたびあげられるそうです。つまり、地球温暖化の犯人捜しをし、インドや中国等のその犯人に仕立て上げようとしているのです。

 では、データを見てみましょう。人間が大気に排出してきた二酸化炭素の大部分は、現在レベル4にいる国が”この50年で”放出してきたものです。例えばカナダの一人当たりの二酸化炭素排出量は、今でも中国の2倍で、インドの8倍です。

10,焦り本能を覆すFACT

 2014年、西アフリカでエボラが流行したとき、データを見るまで誰も自分たちの対策が効いていると思っていなかった。

 アメリカが当初発表したデータによると、エボラに「感染した疑いのある患者」は3週間ごとに2倍になっていったそうです。しかし、筆者が「実際に感染した人」のデータを集計してみると、自分たちが対処を始めたころから感染が確認された人は2週間前を頭にそれ以降は減っていたといいます。

 そもそも「感染した”疑いのある人”」というあいまいなデータをうのみにして過激な行動をとらず、「感染した人」という確かなデータをもとに自分たちの対策が功を奏していたことを確認したこの行動はまさに、「焦り本能」を抑えたものだったといえるでしょう。


 人間には10個の思い込み本能があり、それを防ぐためには事実を見つめることが有効だ。一貫して事実を見る重要性を主張していた本書のおかげで、僕も「正しいデータを見て事実を明確にする」ことの必要性に気づくことができました。

 最後に、本書の中で最も響いた、筆者とアフリカ連合委員会の女性の話を紹介して本記事を閉じます。

 2013年、アフリカ連合主催のイベントに招かれた筆者は、いつものようにデータとそこから見えるファクトを武器に、「極度の貧困がなくなる」というビジョンを大衆にむけて話しました。

 しかし講演後、ズマという委員会の女性から、「ビジョンがない」と言われてしまいます。筆者が「極度の貧困がなくなるといったじゃないか?それが僕のビジョンだ。」と伝えると、ズマはこう答えます。

 「ああ、そうね。極度の貧困がなくなるって話ね。そこが始まりなのに、先生の話はそこで終わっていましたね。極度の貧困がなくなればアフリカ人は満足だと思っていらっしゃる?普通に貧しいくらいがちょうどいいとでも?」

 「講演の結びで、先生はご自身のお孫さんがアフリカに観光に来て、これから建設予定の新幹線に乗る日を夢見てるっておっしゃいましたよね。そんなのがビジョンだなんて言えます?古臭いヨーロッパ人の考えそうなことですよ。」

 「じゃあ、私の夢を言って差し上げましょうか?それは、わたしの孫がヨーロッパに観光に行って、そちらの新幹線に乗ることですよ。スウェーデンの北に氷のホテルがあるっていうじゃあありませんか。うちの孫がそこに泊まるようになるんですよ。だいぶ先のことでしょうけど、きっとそうなります。もちろん、賢い判断も大きな投資も必要ですよ。でも50年もすればアフリカの人たちは観光客としてヨーロッパに歓迎される存在になります。難民として嫌がられるんじゃなくてね。それがビジョンというものよ。」

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 [ ハンス・ロスリング ]

価格:1,980円
(2020/9/16 04:27時点)
感想(60件)

コメント

タイトルとURLをコピーしました