本記事では、教育・子育てに関わる方なら読んでおきたい『学力の経済学』の要点を章毎に分けて紹介します。
『学力の経済学』について
『学力の経済学』の著者は教育経済学者である中室牧子教授です。
「教育経済学」は、教育を経済学の理論や手法を用いて分析することを目的としている応用経済学の一分野です。
少し難しいですが、データに基づき教育に経済学の要素を入れ込んだもの、と捉えていただければ良いかと思います。
著者の中室教授が教育や子育てを議論する際に絶対的な信頼を置いているのが、「データ」です。
『学力の経済学』はそんな中室教授から、年長者の経験や直感ではなく確かなデータ・エビデンスに基づいて教育を行う重要性及びその方法を教わることができる一冊です。
教育や子供に関わる方なら一度は読んでおくべき内容だと思います。
第一章 | 他人の”成功体験”は我が子にも活かせるのか?データは個人の経験に勝る
第一章では、日本の教育の現状と科学的根拠に基づく教育の重要性が指摘されています。
教育では「一億総評論家」
中室教授は、『統計学が最強の学問である』の著者である西内啓氏の言葉を引用し、現在の日本の教育は「一億総評論家」状態だと指摘しています。
「一億総評論家」というのは、日本では全員が教育を受けているため、教育となればどんな人でも私見を持っているということです。
また、そういった「一億総評論家」状態に対する問題的を指摘した西内氏の言葉が秀逸なので引用しておきます。
「自分が病気になったときに、まず長生きしているだけの老人に長寿の秘訣を聞きに行く人はいないのに、子供の成績に悩む親が、子供を全員東大に入れた老婆の体験記を買う、という現象が起こるのは奇妙な事態だとは思わないだろうか」
もちろん、教育に絶対的な正解はありません。
とは言え、全員を東大に入れた老婆の教育法を自分の子供に実践しても同じ結果が出る確率は低いでしょう。
子供の成功にはあまりにも多くの要素が関係しているからです。
(ちなみに子供の学力に最も影響を与える要因は、「親の年収と学歴」です)
教育経済学が信頼するのは「規則性」
上記の老婆のような個人の成功体験を一般化するのはとても難しいです。
にもかかわらず、個人の成功体験を祭り上げ同じことをしてはかえって子供を成功から遠ざけてしまいます。
では教育経済学では何に信頼を寄せるのか?
それは「規則性」です。
具体的には、個人の体験を大量に観察することによって見出される「規則性」です。
こういった「エビデンスをベースにした教育」は日本ではまだ浸透していませんよね。
エビデンスベースの教育に関する海外の事例
では、海外ではどうなのでしょうか?
一例として、米国では2000年代にこういった状態を脱しているそうです。
具体的には、2001年に設立した「落ちこぼれ防止法」で米国は転換期を迎えました。
「落ちこぼれ防止法」の中ではなんと「科学的な根拠に基づく」という言葉が111回も用いられているそうです。
(その後も米国では科学的根拠を重んじる制度や次々と生まれ、エビデンスベースの教育への移行に成功しているそうです)
第二章 | 子供を”ご褒美”で釣ってはいけないのか?科学的根拠に基づく子育て
第二章では、中室教授がよく受ける相談・質問を取り上げ、科学的根拠を用いながら回答しています。
子供をご褒美で釣っても良い
中室教授が子育て中の親から最も頻繁に相談を受ける内容が、「子供を勉強させるためにご褒美で釣ってはいけないのか?」だそうです。
結論、人間として備わっている「物事を先送りにする性質」を抑え、子供の将来に役に立つ勉強に向かわせる戦略として「ご褒美」は正しいそうです。
教育経済学には「教育の収益率」という概念があり、1年間の教育的な投資は株や債権などの金融資産への投資と比べても高いことが多くの研究で示されているそう。
インプットに対するご褒美が有効
では、 何に対して「ご褒美」を与えることが子供の学力向上のために有効なのでしょうか?
その答えは、「インプットに対して与えるご褒美」です。
ハーバード大学のフライヤー教授は、子供に対するご褒美と学力の関係性を研究しました。
具体的には、「インプットに対するご褒美」と「アウトプットに対するご褒美」の比較です。
「インプットに対するご褒美」は、本を一冊読んだらご褒美をあげる、のように本を読む・宿題を終える・出席をする・制服を着るなど「結果を出すための過程」に対してご褒美を渡すことを指します。
一方で「アウトプットに対するご褒美」は、テストで良い点を取ればご褒美をあげる、のように学力テスト・通知表など「結果」に対してご褒美を渡すことを指します。
上記2つを比較した結果、学力テストの結果が改善したのは「インプットに対するご褒美」だったのです。
特に、読書に対するご褒美を与えられた子供たちの学力の上昇は顕著だったそうです。
(ちなみにアウトプットに対するご褒美は一切意味をなさなかったようです)
なぜそのような結果になったのでしょうか?
それは、アウトプットに対してご褒美を渡された子供は「本質的な学力の改善に結びつく工夫」を行わなかったからです。
アウトプットに対してご褒美を渡された子供は、「今後もっとたくさんのご褒美をもらうためには何をしたら良いか?」という質問に対して、
・しっかり問題文を読む
・解答欄を見直す
などテストを受ける際のテクニックばかりを答えたそうです。
・わからないところを先生に質問する
・授業に出席してノートをとる
などテストに閉じない学力を身に着ける方法を重要視しなかったのです。
ご褒美は子供の内発的動機を奪わない
「インプットに対するご褒美」が有効だとわかりましたね。
ただ、ここで「ご褒美は子供が勉強に感じている楽しさを奪ってしまうのでは、、」と思う方もいるはずです。
そこに対してもフライヤー教授は検証を行っています。
結果、ご褒美を渡した子供と渡さなかった子供の内的インセンティブには統計的に有意な結果は見られなかったのです。
ご褒美は子供たちの「勉強することが楽しい」という気持ちを奪うことには繋がらなかったのです。
また渡すご褒美は、子供が幼ければ幼いほど、お金ではなくトロフィーのように子供のやる気を刺激する物が有効とのこと。
さらに、ご褒美を渡すタイミングですが、インプット(1時間勉強したら、等)が終わったらすぐ渡す約束をすると良いです。
先述のようにご褒美を渡す意義は人に備わっている「物事を先送りにする性質」に争わせ、インプットにすぐ向かわせることなので、インプット行為が終わったらすぐにご褒美を渡してあげましょう。
褒める、ゲーム、友達、教育に投資する時期
第二章では紹介した「ご褒美」以外にも、下記のような話が科学的な根拠に基づき展開されています。
(論の展開がやや遠回しなのでたまに「結局結論はなんなの、、」となるかもです)
子供を褒めて育てるべきなのか?
- 褒めた方が良い
- 褒めるべきは、子供の能力・才能ではなく、子供の努力
- 能力褒めは子供のやる気を蝕む
テレビやゲームは子供に悪影響を及ぼすのか?
- テレビやゲーム自体がもたらす悪い影響はそこまで大きくない
- ゲームで暴力が行われていてもそれを現実でやろうと考えるほど子供は愚かではない
- テレビやゲームを辞めさせても学習時間はほとんど増えない
- 「勉強しなさい」は意味がなく、「勉強を見守る」など親の時間を犠牲にする行為は意味がある
- 苦手教科の克服するためには同性の教師の方が良い
友達が学力に与える影響は?
- 学力の高い友達の中にいると、子供の学力は上がる
- ただし、学力の高い友達からプラスの影響を受けるのは、元々学力が高かった子供
- 学力が低い子供を学力が高いグループに所属させるのは逆効果
- 問題児は、学級全体の学力に負の影響を与える
- 習熟度別学級は、「ピア・エフェクト」の効果を高め全体の学力を押し上げる
- 習熟度別学級は、特に元々の学力が低い子供に有効
- ただし、子供の学齢が低い時期に習熟度別学級を実施すると格差が拡大し学力が下がる
*ピア・エフェクト(ピア効果):仲間や同僚などがお互いの行動や意識に影響を与え合うこと
教育にはいつ投資すべきか?
- 教育への投資が最も効果を発揮するのは、子供が小学校に入学する前(幼児教育)
- 幼児教育は必ずしも学力を育てるものである必要はない
- 「ペリー就学前プログラム」で幼児教育は収益性の高さが明らかになった
- 幼児教育の収益性は具体的には、4歳で投資した100円が65歳で6,000円から3万円ほどになり社会に還元される!!!
*「ペリー就学前プログラム」についてはこちらで詳しく解説しています(図有り)
非認知能力の重要性を示唆したヘックマン教授の研究【ペリー就学前プログラム】
第三章 | “勉強“は本当にそんなに大切なのか?人生の成功に重要な非認知能力
第三章では、第二章で少し言及した「ペリー教育プログラム」をベースに、子供の将来を左右する「非認知能力」について詳しく解説されています。
子供の将来を左右する非認知能力
「非認知能力」は、IQなどに代表される「認知能力」と対をなす概念です。
一般的には「生きる力」などと言われ、人間の気質や性格的な特徴を指します
また、非認知能力は数値化・指標化することができません。
少しふわっとしているので、わかりやすいように例を挙げます。
下記のような能力が「非認知能力」に該当します。
参考までにご覧ください。
- 非認知能力に該当する能力
-
- 自己認識(Self-perception)
- 意欲(Motivation)
- 忍耐力(Perseverance)
- メタ認知ストラテジー(Metacognitive strategies)
- 社会的適性(Social competencies)
- 回復力と対処能力(Resilience and coping)
- 創造性(Creativity)
- 性格的な特性(Big 5)
*「非認知能力」についてはこちらの記事で図解有りで詳しく解説しています。
非認知能力は、年収や就業形態などに影響
なぜ、「非認知能力」が子供にとって重要なのでしょうか?
それは「非認知能力」の有無が、将来の年収、就業形態など労働市場における成果(社会的な成功)に大きく影響することが明らかになってきているからです。
そして非認知能力の重要性を指摘した経済学者のジェームズ・ヘックマン教授は、「非認知能力」は「人から学び、獲得するものである」と述べています。
第二章で、「幼児教育は重要だがそれは必ずしも学力を改善するものだけではない」としたのは上記の理由からです。
特に重要な非認知能力「自制心」「やり抜く力」
中室教授は「非認知能力」の中で特に重要な能力があると言います。
それが、下記の条件に合致する能力です。
- 学歴・年収・雇用などの面で、長期に渡り子供にプラスの影響を与える
- 教育やトレーニングによって伸ばすことができる
では、どんな能力が上記の条件に合致するのでしょうか?
中室教授は2つの能力を挙げています。
①自制心
1つ目が、「自制心」。
「自制心」は「マシュマロ実験」で有名になりました。
「マシュマロ実験」では、186人の4歳児を集め、4歳児の前にマシュマロを差し出し、大人は子供から離れます。
そして下記のように4歳児に伝えたのです。
「マシュマロをいつ食べてもいいけれど、大人が部屋に戻って来るまで食べるのを我慢できたらマシュマロを追加で一つあげるよ」と。
結果的に3分の1の子供は15分間我慢してマシュマロを2つ手にしました。
その後、186人の4歳児を追記調査したところ、15分間我慢できた子供は我慢できなかった子供に比べてSATのスコアが高かったのです。
自制心の育て方
「自制心」を育てるには、「細かく計画を立て、記録し、達成度を自分で管理すること」が有効だと言われています。
少し抽象的ですね。
要するに子供に対してPDCA(Plan-Do-Check-Action)の機会を提供し続けようということですが、いざやろうとすると難しい。
これは本書に書かれている内容ではないのですが、最も簡単にできることは、夕食の場での会話でしょう。
夕食の場で子供に、「明日やってみたいこと」を聞き、次の日の夕食でそれが達成できたかまた聞いてみるのです。
(ちなみに週5日以上の家族での夕食は子供の非行率や過食率などを下げるので、上記のことをしなくても家族揃っての夕食の時間は大切にしましょう)
こちらの記事で、「自制心を伸ばすために家庭で導入すべき3つのルール」などより詳しい解説をしているのでぜひご覧ください。
②やり抜く力(GRIT)
2つ目の能力が、「やり抜く力(GRIT)」です。
ペンシルベニア大学の心理学者、ダックワース教授が「やり抜く力(GRIT)」の重要性を指摘しました。
具体的には、「非常に遠いゴールに向けて、興味を失わず、努力し続けることができる気質」が「やり抜く力(GRIT)」です。
*「やり抜く力(GRIT)」については、こちらの書籍をご一読いただくとよく理解できると思います
やり抜く力(GRIT)についてはこちらの記事でより詳しく解説しているのでぜひご覧ください。
やり抜く力の育て方
そして「やり抜く力(GRIT)」。
「やり抜く力(GRIT)」を伸ばすには、子供が持つステレオタイプを取り払ってあげることが有効です。
スタンフォード大学の心理学者であるドュエック教授の研究では、親や教師が「能力は生まれつきのものではなく、努力により後天的の伸ばすことができる」という類のメッセージを子供に頻繁に伝えると、その子供の「やり抜く力(GRIT)」が強くなることが明らかになったそうです。
一方で「ストレオタイプの脅威」と呼ばれる、子供が元々持っている悪い価値観を想起させる関わり方は「やり抜く力(GRIT)」を弱めてしまいます。
実際、「年齢と共に記憶力は低下する」という記事を読んだ人は、その記事を読まなかった人と比べて記憶する単語数が少なくなったそうです。
また、インドでは、農村の少年たちに自分たちの社会的身分(カースト)を思い出させてからテストを受けさせるという実験を行いました。
結果、社会的身分を思い出した時は、そのようなコントロールをしなかった時に比べて成績が悪くなったそうです。
上記2能力以外も含めて「非認知能力の伸ばし方・育て方」を知りたい方はこちらの記事をご覧下さい。
https://booksoccermarketer.com/hininchinouryoku-sodatekata
第四章 | “少人数学級”には効果があるのか?科学的根拠なき日本の教育政策
第四章では、2014年10月に財務省が行った「40人学級を35人に戻すべき」という主張とその際に使用した乱暴なエビデンスを取り上げながら、科学的根拠なき日本の教育制度について述べられています。
*上記の話についてはこちらの記事で詳しく取り上げています
少人数学級のコスパは確かに悪い
ただ中室教授によると、少人数学級は「効果はあるが、他の政策と比較すると費用対効果は低い」そうです。
少人数学級のようなお金のかかる政策ではなく、もっと安価な方法で学力をあげることが可能です。
具体的には、マダカスカルで行われた実験について言及しています。
この実験では、小学生を集めました。
そして、「家計調査を元に学歴と年収のデータを用いて算出された教育の収益性」を知らせるグループと、知らせないグループに分類しました。
結果的に、教育の収益性を知らされた子供たちは、知らされなかった子供たちに比べて学力が高くなりました。
この実験から中室教授は、「教育を受けることの経済的な価値」に対する誤った思い込みを正すだけで子供の学力は向上する、と主張しています。
検証されない教育予算と行き過ぎた平等主義
また現在、日本の教育支出は15年間で20%以上減少しているそうです。
この背景には、過去日本が実施してきた教育政策の費用対効果が科学的に検証されて来なかったことがあるそうです。
これまでの教育政策が予算獲得の根拠と説得に欠けることが、教育財源の確保をより困難にしているのです。
教育財源に加え、「行き過ぎた平等主義」についてもエビデンスを用いて批判しています。
例えばこれまで、平等を重んじるため一部の子供や学校を対象にした教育は行われて来ませんでした。
その結果、逆に子供の学力格差は拡大したのです。
平等に教育を施したのに、なぜ格差が広がったのでしょうか?
それは、教育の前提が異なるためです。
教育におけるアウトプット(学力)は、「どんな学校に通っているか?」以上に「どんな親の元に生まれたか?」という変数の影響を受けます。
それなのに平等という正義の元、一人ひとりに合わせた教育を行わないため、優秀な子供はより優秀に、元々学力が低い子供は変わらないもしくはより学力が低くなってしまうのです。
ちなみに「行き過ぎた平等主義」ネタで言うと、運動会で「手を繋いでゴールしましょう」という方針を掲げた学校で育った子供は、他人への配慮に欠ける大人になる確率が高かったそうです。
学力において人は平等ではない。生まれた家庭(親の年収など)の影響を強く受ける。 このことを受け入れた上で教育政策を展開する必要があるのではないでしょうか?
必要なのは第三者機関による政策評価
このような状況を脱するために中室教授は、「第三者機関による政策評価」を行うことが必要だと主張しています。
第三者機関が介入して教育政策を評価することで、客観性・中立性が担保されるのです。
また、収集されたデータを、ローデータレベルで国民に開示する必要性も説いています。
南アフリカ政府は、労働力調査や家計調査などの政府統計の個票データをインターネット上で世界中の全ての人に開示しているそうです。
その結果、政府がわざわざ雇用しなくても世界中の優秀なエコノミストがこぞって分析をしてくれているのだとか。
第五章 “いい先生”とはどんな先生なのか?日本の教育に欠けている教員の「質」という概念
ここまで、子供の学力に対して大きな影響を持つ変数は、家庭(親の年収など)と言う話をしてきました。
第五章は一転して、学校では何ができるのか?という話です。
質の高い教員が子供を救う
第五章で最も大切なメッセージは、「遺伝や家庭の資源など、子供自身にコントロールできない問題を解決できるのは教員」というものです。
教員の「質」に関する研究を行ってきたスタンフォード大学のハヌシュク教授によると、教員の「質」で子供の学力は以下のように変化したそうです。
- 能力の「高い」教員が教えた場合:子供たちは1年で「1.5学年分」の内容を習得
- 能力の「低い」教員が教えた場合:子供たちは1年で「0.5学年分」の内容を習得
またハヌシュク教授によると、能力の高い教授は、遺伝や家庭の資源などの子供にとって不利な条件を帳消しにできるそうです。
定量的な「付加価値」による評価で、いい先生を見定める
次に、どんな先生が「いい先生」なのか?という話に移りましょう。
当たり前のように思えますが、本書では「過去の子供自身と比較して今日より明日と伸ばしてやれる先生」こそが「いい先生」であるとしています。
具体的には、生徒の「付加価値(学力の変化を表す経済学の専門用語)」を最大化できる教員が「いい教員」だそうです。
この「付加価値」でみた時に、下位5%に位置する教員を平均的な教員に置き換えるだけで子供の生涯収入を学年あたり2500万円上昇させることができるのです。
(ハーバード大チェティ教授らによる検証)
上記の話を受けて中室教授は、教員の「数」を増やすよりも教員の「質」をあげる仕組みが必要だと主張しています。
教員の質を高めるために免許撤廃が必要
一体どうすれば教員の「質」を高めることができるのでしょうか?
「教員免許制度の撤廃が有効だ」と中室教授は主張します。
元も子もない話ですが、能力が高い人材を教員として採用すれば自ずと教員全体の能力が向上していきます。
そのためには、教員になるための参入障壁を下げる、つまり免許を撤廃する必要があるのです。
「教員免許を撤廃すると教員の質が下がるのでは?」と思う方もいるでしょう。
その仮説を検証するには、免許保有者と非保有者それぞれに教育を受けた子供の成績を比較する必要があります。
ティーチ・フォー・アメリカという非営利団体では、米国内の一流大学の卒業生を、卒業後2年間低学力に悩む公立学校に教員として派遣するプログラムを実施しています。
ティーチ・フォー・アメリカから派遣された人材の多くは免許非保有です。
ただこれまでの研究を見ると、ティーチ・フォー・アメリカから派遣された教員が教えた子供の学力は、免許保有の教員が教えた子供よりも成績が良いか、差がなかったそうです。
つまり、教員免許は必ずしも教員の質を担保することには繋がっていないのです。
ちなみに下記の要因には子供の学力との因果関係が見られなかったそうです。
- 教員の給与(ただし先にボーナスを渡す宣告をしてそこから減額するシステムは効果があったそう)
- 教員研修
また、ここまで紹介して来たデータはほぼ米国のものですが、これは日本が教育、特に教員の質についてのデータを
・取得していない
・正しく取得できていない
・取得しても公開しない
状態にあるためです。
とはいえ政府に過度に期待しても仕方ないので、利益と言う明確な目的を持つ民間企業が主導して教育に関するデータを収集し公開していく動きが必要なのではないでしょうか?
まとめ
いかがでしたでしょうか?
データ・エビデンスを元に教育を分析、判断し政策を考える重要性をご理解いただけたでしょうか?
僕自身も教育サービスの開発をしたり、中高生にキャリアやお金の教育をしたりしていますが、
・エビデンスベース
・エビデンスベースを実現するためのデータ収集、活用
においてはまだできることが沢山あると感じました。
本記事の内容に興味を引かれた方はぜひ『学力の経済学』を読んでみてください。
Audibleで聴くこともできます。
コメント